Future Signs 未来の兆し100 特別対談 人生100年時代の女性像 作りたい未来が現実に近づいてきた10年前のセッション。これから描きたいのは人生100年時代の女性像

フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。

資生堂

Future Sessions

2013年6〜9月にかけ、資生堂とFSSが取り組んだのが「2023年日本の男性の未来」フューチャーセッション。男性の生き方の多様なパターンを描くことを目的に、2023年の日本の男性像のペルソナを描き、そのペルソナがどんなニーズ・課題を抱えているのか考え、サービスアイデアをプロトタイプするところまで行なった。資生堂・FSS社員だけでなく、一般でも多くの応募があり、毎回さまざまな属性の方が参加。全4回で、延べ200名ほどが参加したセッションとなった。

10年前に描いた
「日本の男性の未来」。
普段絶対に出会えない方と繋がった

上井

石井さんとしっかりとご一緒したのは「日本の男性の未来フューチャーセッション」でしたね。約10年前の2013年のプロジェクトでした。最初にお声がけいただいたきっかけって、どんな感じでしたっけ。

石井

当時私は、資生堂の経営企画部市場情報室で、生活者リサーチを担当していました。未来の生活者に資生堂の商品を使っていただくために、とくに若年層の価値観をグローバルにリサーチするプロジェクトを進めていました。その流れの中でFSS創業者の野村さんの著作を読みまして、「フューチャーセッション」という手法に関心をもちお声がけしたという経緯です。

上井

僕にとっては、入社して数カ月というタイミングで関わったのがあのプロジェクトでした。開始5分前に急にファシリテーションを振られて動揺した記憶が今蘇ってきました・・・。このセッションは「女性は変わった、次は男性が変わる番だ」を合言葉に、資生堂さんが未来の男性の生き方はどう変わるか?という問いを持たれたことではじまったセッションでしたね。今存在する変化の兆しを捉えてから、2023年の日本の男性像を考えていきました。10年経ってアウトプットを見てみると、確かに今こういう人いるなあ、という男性像がかなり描けていますね。今のZ世代見ているような感じ。

石井

なつかしいですね。でもかなりリアルに覚えています。出てきたペルソナのほとんど全部、イメージの元になる方が参加者の中にいらっしゃいました。ですからその方とリンクして鮮明に思い出せます。このセッションで出てきたペルソナの「フルーティー・オヤジ」さんとは、私今も繋がっています。同じグループでした。お話も雰囲気も明るくて深みがありインパクトがありました。こういう方がいらっしゃるのだと。最先端にいる方に出会えたと思いました。

上井

「フルーティー・オヤジ」さんですね。確かにいらっしゃったなあ。妻に愛してる、とフツーに言える、スイーツに可愛い!と言える・・・

石井

このセッションで、全てのバリエーションを出しきったと言えるくらい、多様な男性像が描けたと思います。その後10年でたくさんの男性にお会いしましたが(笑)「この方はアクティブ草食系男子だな」みたいに、当てはまるペルソナがあるのです。

上井

未来の男性像への関心が高まっていたタイミングで、公募ですぐに40〜50人の参加者が集まったんですよね。だからこそかなりバリエーションが網羅できたように思います。僕は当時まだ結婚前、子どもも産まれる前だったんですけど、あのセッションで自分の人生の選択肢がかなり見えたように思います。あのインプットを受けた生き方をしていることに、今話していて気がつきました。

石井

「日本の男性の未来」も、その後お願いした別のセッションでも思ったのですが、フューチャーセッションズさんの作る場は、人の生き方のバリエーションを提示してくださるのが良いですね。マーケティングでは、ターゲットの条件に当てはまる方にデプスインタビューしますが、そうではなくて、参加者の思考や嗜好のバリエーションがセッションの間に見えてきて、その中のひとりとしてのペルソナ、世の中に知られていないけれど魅力的な人に出会えました。その一連の流れにはリアリティがあって心地良かったです。

「2023年日本の男性の未来フューチャーセッション」第1回で描かれたペルソナ、フルーティー・オヤジ

ゆるい未来思考の繋がりは、
フューチャーセッションで
得られる大きな財産

上井

「日本の男性の未来」は、ペルソナを作るだけじゃもったいない、ということになって、その次のステップもやったんですよね。

石井

はい。未来の男性たちが暮らす世界を描くシナリオを作り、サービスアイデアとしてアウトプットするところまでをやりきりました。社内で成果をシェアしましたが、そこから先何か具体化には至りませんでした。練習問題的に始めたところもあったので。でも、あのプロジェクトに深く関わった社員とは、今も不思議な連帯感があります。おもしろいのは、一緒にビジョンを描いた人たちの行動には、セッションでその人が望んでいた未来観が反映されていて、、、、そのことに安堵する自分がいます。

上井

そうなんですか。いや、おもしろいですね。

石井

だから、当時の提案がそのままビジネスにはならなくても、先につながっているのは間違いないなと思います。参加した一人ひとりが、会社でもプライベートでも、何かしらセッションで得たものをベースに生きていたら、それらは全てあのセッションの先にある活動だと言えるのではないかなと。例えば、何かのアイデア出しの時にキーワードを思い出すとか、そういうことは起きていると思いますね。

上井

確かに。あの場で気づいた未来の兆しというか、男性の未来が、僕自身の他の仕事にも少なからず影響を与えてきたんだろうと思いました。感慨深いですね。

石井

社外の方ともずっとゆるく繋がっていて、SNSなどで活動を見て、じゃあ私もこうしてみようかなと動いてみたり、ちょうどよい関係性です。財産になっています。

上井

なるほど。僕らがこの会社を10年続けてこれたのも、まさにおっしゃるような「ゆるい未来思考の繋がり」があるからなんでしょうね。このゆるい繋がりこそが、フューチャーセッションの源泉なのかなというのは改めて気がつきましたね。

石井

フューチャーセッションズさんが取り組んでいることって、デザインですよね。人と人をどう繋ぐか、アイデアを持っている人を上手に繋ぎ次のステップに進ませるためのデザイン。

上井

今の石井さんの話を伺って、僕らのデザインというのは、人の繋ぎ方も含めた共創のプロセスをデザインしていると言えるのかなと思いました。実践経験を積んできて、今このタイミングは共感が必要だよね、とか、その一歩前の理解をする必要があるよね、とか。今このタイミングですべきなのは、発散なのか収束なのか、そうしたセッションを積み重ねていくと、ステークホルダーの繋ぎ方の選択肢も増えてくる。そんなプロセスをデザインしているのかなと思いました。

2013年7月5日に行われた「日本の男性未来」フューチャーセッションより

女性もまだ、変わっていない。
人生100年時代の
新しい女性像を描きたい

石井

「日本の男性の未来」をやってよかったなと思うことのひとつに、社内から募った有志参加者を、期待通り多様な人たちに繋ぐことができたということがあります。その後は、参加してみて手応えを感じた研究者やクリエイターが、みずからテーマオーナーとなって社内でセッションを主催するようになりました。私もサポーターとして、または参加者として社内外のイベントに関わりながら対話の場づくりを学んできました。

上井

「日本の男性の未来」の後、研究所を主体にしたフューチャーセッションもやったり、石井さんが異動されたクリエイティブの部署でフューチャーセッションをしたりと何度もお声がけいただきました。

石井

セッションのたびに繋がりが生まれて、ヒントやインスピレーションをいただいてきました。フューチャーセッションという手法は使わなくとも、対話を強く意識して動くようになったかもしれません。社内外の参加者とともにサイエンス×デザインで未来を描くプロジェクト「LINK OF LIFE」や、資生堂グループに所属するクリエイター対象のプログラム「Global Creators’ Summit」でも、対話の時間を設けました。みんなで知恵を出し合って未来を描き、一人ひとりが自分で役割を持って、誰がリーダーでもなくワークが進む、そんな場づくりが理想です。

上井

すごいなあ。石井さんは本当に、資生堂におけるエバンジェリストですよね。今、10年経って、10年後、例えば男性の未来を考えるフューチャーセッションをしたとしたら、どうなると思いますか?

石井

まず思うのは、もう性別っていうものに囚われない違う価値観軸に変わっているだろうなということですね。それから、個人的にどうしても思ってしまうのは、やっぱりそうは言っても社会の仕組みって、つねに課題があり、伸び代があるということ。「女性は変わった、男性が変わって、女性はもっと変わる」。そんなことを願って、2013年に日本の男性の未来像を考えていたわけですが、変わりたくても変われない人は男女ともに大勢います。10年後の世の中では、さらに自由に、わたしたちの生き方のバリエーションが存在していてほしいと思います。

上井

自由ですか。

石井

自由が、良いことなのかはわからないのですが、わたしたちは2013年時点にはあまり話されていなかった「人生100年時代」をより意識するようになりました。100年となると、性別を問わずロールモデルは少ないのではないでしょうか。あらためて、私自身も長い人生の、とくに50代、60代以上の人々がどんなことを考え、何をハードルと感じていくのかじっくりと考えたことがないことに気づきました。

上井

いいですね、おもしろいです。フューチャーセッションしたいです。

石井

ご年配の方でSNSを楽しむ方は多いですし、高齢者がデジタルにも強くなって、オンラインとリアル両方楽しんでいく、そういう未来を描いていきたいなと漠然と思います。ツールも老眼の方、声が聞き取りにくい方が増えるので、使いやすく進化していくはず。

上井

おもしろいですね!セッションに呼びたい人、何人か思い浮かびました。今アクティブシニア層を主な対象にした企業と仕事をしているのですが、シニアの方々って、趣味をベースにコミュニティを持っていて、そのコミュニティをすごく大事にされているそうなんです。驚くほどいろんなことに挑戦されている活動的な方々が、すでにたくさんいると聞きました。そういうモデルになる生き方を知りたいですよね。

石井

そう、歳をとることについては誰もが当事者なのですよね。自分の老後というか、もはや老後でもなくて。人生100年時代を語る本やブログはあるけれど、構えずに誰かと、人生後半をどう生きるか語り合いたい、という方もいるのでは。

上井

いいですよね、ナチュラルなバックキャスティングというか。一緒に話すことで、そういう選択肢もあるんだと思えそうです。自分がやってみたいな。人生後半をイキイキと生きていく、そういうきっかけの場になりそうですね。10年前には日本の男性の未来を考えて、今また、人生100年時代の未来の女性像・男性像を考える。日本の未来を考える、ムーブメントになっていったらおもしろいですよね。

石井

だからやっぱり、フューチャーセッションって、そういう良さがありますよ。ガチガチに何かをアウトプットせねば、直結させねばならぬということだと、お決まりの回答しか出さなくなってしまう。だけどフューチャーセッションだと余白があって、いろいろなポテンシャルを無駄にせず、ゆるやかに未来に繋がっていきそうです。

上井

ありがとうございます。10年前の10年後に今があって、そしてまた10年後。男も女も、デジタルもリアルも混ざり合って、未来がどうなっていくのか、本当にワクワクしますね。

『Global Creators’ Summit』は世界各地で活動する資生堂グループのクリエイターが参加するプログラム。石井さんが企画に携わり、2016年から開催されている。3日間の体験を通じ、クリエイターの感性を刺激し、未来を描き、共有する内容になっている。写真は鎌倉で開催された『GCS2019』の様子(https://creative.shiseido.com/jp/read/60126/

編集後記

私にとって、資生堂さんとご一緒させてもらった「2013年 日本の男性の未来プロジェクト」はとても印象に残っているプロジェクトの一つです。
当日フューチャーセッションズに入社したばかりで、最初のセッションだった記憶があります(これに関しては苦い経験が汗)。
「10年後の日本の男性は、どう変わるんだろうか?」
あの時に多様な人たちと描いた未来。実際に10年経った今、世の中で実現していることが数多くあります。
まさに、フューチャーセッションがリアルになった醍醐味を感じました。
「次の10年はどうなるんだろうか?」石井さんとの対話によって、またワクワクするゆるやかな繋がりのセッションを開きたいなと思える時間となりました。

(上井)

プロフィール

石井 美加(いしい みか)
資生堂クリエイティブ株式会社 
アカウントディレクター

資生堂に入社後、販売会社、化粧品開発部、宣伝制作部、経営戦略部市場情報室、クリエイティブ本部を経て、2022年1月より現職。2013年「2023年日本の男性の未来」フューチャーセッションを企画運営。

上井 雄太(うわい ゆうた)
株式会社フューチャーセッションズ
IAF Certified™ Professional Facilitator
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所研究員
Jリーグシャレン!コアメンバー

2013年5月に株式会社フューチャーセッションズの掲げるビジョンに共感し入社。2013年9月、当時日本人最年少でIAF Certified Professional Facilitator(国際ファシリテーターズ協会認定プロフェッショナル・ファシリテーター)取得。 企業、行政、ソーシャルセクターの横断を軸に年間80回を超えるファシリテーションを実施。現在はスポーツ共創ファシリテーターとして「スポーツ×ビジネス×地域」をテーマにした多数の共創セッション・プロジェクトに従事。
2013年資生堂「日本の男性の未来」プロジェクトに参画。