Future Signs 未来の兆し100 特別対談 課題を起点に街や社会を変えていく 認知症の課題を起点に街や社会全体を変えていく

フューチャーセッションズはこれまで、多様な方々と、社会進化につながる新しい価値を共創し続けてきました。会社設立から10年の節目を迎え、芽生えたのは、これまで関わってきた方々が今どんな未来を信じているのか問いかけてみたいという想いでした。「よりよい未来」の解像度を上げ、これから先の10年を描く礎としていくために。共創パートナーのみなさんに話をうかがって見えてきた、「未来の兆し」を共有していきます。

株式会社DFCパートナーズ

Future Sessions

NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作した後、認知症の課題に取り組む活動を始められたDFCパートナーズの徳田さん。認知症の人と多様なセクターの人との連携によって生活の課題を解決していこうという「認知症まちづくり」を進めるなど、認知症当事者の声を起点とした活動を展開している。

異分野の人たちとの
認知症についての対話が
新たな発見につながる

芝池

徳田さんと私たちフューチャーセッションズとの最初の出会いはいつ頃、どういったことがきっかけだったのでしょうか?

徳田

私は2009年までNHKで医療や介護に関する番組のディレクターをしていたのですが、その後、認知症の課題に取り組むためにNPOの活動を始めました。その当時、認知症については医療や福祉関係者の中だけで話されていて、それ以外の人たちにとってはどこか触れてはいけない話題のように扱われていると感じていました。
どうしたら認知症についてもっと多くの人が自然と考えられるようになるだろうか、という課題設定のところで悩んでいた時期に、国際大学GLOCOMでのイベントでフューチャーセッションズ創業者の野村さんとお会いしたんです。野村さんたちや、その場に参加していた志を持った企業の皆さんたちとのお話をする中で、医療福祉関係者以外の人たちと一緒に認知症の課題について対話をするということが始まりました。やってみると、同じ課題でもこれまでとは違う切り口で語ることで、「こんな考えもあるんだ」という発見が多くて。その後、2012年にフューチャーセッションズが設立されて、様々な企業の方々とのセッションに参加させてもらうようになりました。

芝池

2016年から「認知症まちづくりファシリテーター養成講座」が始まり、私もご一緒させていただくようになりました。

徳田

野村さんとセッションをやっていた初めの3~4年は、自分たちが主体になって、認知症というテーマを深め、どんな切り口があるだろうかということを探求していきました。そこから、認知症をまちづくりに応用するために人を育ててチームを作っていこうというフェーズで芝池さんに入っていただきました。テーマを深めてから実装していくというところまで、この10年ほど伴走していただいていることになります。

芝池

NHK時代に認知症の取材をしてしばらく経ってからもう一度取材をされた時に、問題の根本が全く変わっていないと感じられて、この問題に関わろうと決められたということを以前お聞きしました。それからさらに時間が経過しましたが、この10年で認知症の問題や社会がどのように変化したと捉えていらっしゃいますか?

徳田

この10年で大きく変わってきた部分とそれほど変わっていない部分、どちらもあると感じています。
10年前は、医療や福祉関係者がそれ以外の人たちに、「認知症はこういう病気です。理解しましょうね。」と教えることが主流でした。それが今では、認知症当事者が自分の経験を語ったり、それを聞いた企業の人が事業に活かそうとし始めています。当事者の声を起点に、社会が変わり始めているというのは大きな変化ではないでしょうか。
一方で、認知症当事者全体の数からいえば、自ら語るような人はまだ少なくて、企業の中でも耳を傾けて行動に移そうという人は少数派です。確実に変化の兆しはあるものの、「認知症の人はこういう行動をするから外に出ては危ない」という認識が社会全体の中ではマジョリティだし、底流は変わっていないのも事実です。

「認知症まちづくりファシリテーター養成講座」の様子

認知症のテーマを入口に
街や社会全体の
有り様全体を変えていく

芝池

私は、徳田さんが言われている「認知症をきっかけに基盤となる社会全体のOSをアップデートする」という考え方が好きなんです。認知症当事者の視点で見ると、これまでの街の有り様をガラッと違う見方をすることができるし、それはむしろ進化の機会なんじゃないかと。多様性やダイバーシティといった他の課題にも当てはめられる可能性を感じる一方で、ハードルも高そうだと感じます。

徳田

確実に変わってきている街もありますが、そうでない街が多数というのも事実ですよね。自分で活動を始めて最初の5年ぐらいは社会全体が大きく変わるという期待もありましたが、全体からするとまだ半分にも満たない。昔ながらの社会の流れと言うのはやはり根強くて、自分が影響力を及ぼせない範囲が圧倒的に多いと感じています。

芝池

徳田さんが一つひとつの街で丁寧に寄り添って活動されているからこそ、「認知症まちづくりファシリテーター養成講座」でも学んで終わりというのではなく、どうやって実践して変化につなげていくかという視点で参加してくれる方が多いですよね。

徳田

社会の変化を30~50年ぐらいのスパンで考えていくと、気づきを持って主体的にアクションを起こしていく初めのフェーズと、法律が制定され、制度によって行動が決められていくというその次のフェーズがあると思うんです。認知症の課題の場合は、いま主体的に動いてくれる人が増えつつあって、より多くの人たちが関わるようになってきています。さらに10~20年すると、法律が制定されて誰もが関わらざるを得ないというフェーズになるでしょう。次のフェーズに変わる段階で、主体的に動いていく人とは別の行動原理を持った人たちも動かせるように、仕組みや仕掛けを変えていかなければならないと思います。

芝池

対話で人のつながりをつくりながら、考え方をアップデートしてアクションにつなげていくという認知症まちづくりでの実践は、認知症の課題に限らず、他のまちづくりの文脈でも活用できるのではないかと感じています。

徳田

例えば、町田市では「認知症と災害」という課題に力を入れていきたいと話しています。大災害が起きた時に、認知症の人たちは避難所に行って普通に過ごすのは難しいかもしれない。でも、認知症に限らず、他にも避難所生活に適応できない人たちもいますよね。認知症の人を「一般の想定から外れた人たち」とすると、まちづくりやこれからの地域のあり方を考えた時に、どういう原則で考えたらよいかというヒントになります。
認知症の話を入口にして問いを共有して設定すると、課題感として具体性がありつつ普遍性もあります。そのちょうど良さが、まちづくりをする人たちに響く部分があるのではないでしょうか。

芝池

まさにフューチャーセッションを体現していますよね。入口である認知症の課題は大事にしつつ、進めていくうちに他の立場の人に対してできることを考え、課題がつながっていくという。認知症の課題から入って、街や社会の有り様全体を考えていく、という視点の転換は学ぶところが大きいです。

徳田

認知症の場合は、誰もがいずれ高齢になった時になる確率が高いので、自分ごと化しやすいテーマなのかもしれません。

芝池

認知症というテーマからスタートして、これまで人とのつながりを積み重ねてきたからこそ、新しいテーマとつながった時に思わぬ化学反応が起きて認知症やその他のテーマそれぞれに対して相乗効果が生まれそうです。これから各地域の認知症まちづくりファシリテーターや、認知症の課題に取り組んできた人たちが、他のテーマとつながってインパクトを出していけたら面白いですよね。

徳田

これまで50~60地域の人たちが「認知症まちづくりファシリテーター養成講座」を受講してくれています。それぞれが蒔いた種の芽が出てくるような展開が楽しみです。

芝池

フューチャーセッションズも様々なプロジェクトを通して地域とつながっているので、認知症まちづくりのチームと相性の良さそうな地域をつなげていくお手伝いができそうです。

徳田

これまでもセッションにゲストとして呼んでいただき、別領域の方々とつながる機会がありました。私の活動について話をする場も含めて、出会いのプロセスが設計されているからつながることができるし、フューチャーセッションズが様々な領域で仕事をされているからこそ、異なる人たちを編み上げていく接点になれるのではないかと感じます。

芝池

いま、こうした別領域とつながると面白いことが起きそう、という予感はありますか?

徳田

スタートアップなど、小規模で機動力があるグループとの化学反応は面白いですよね。ひとつ例を挙げると、名古屋の認知症当事者と繊維関係の工場がコラボして靴下を作ったんです。空間認識が低下する認知症の人たちは、靴下の前後、表裏の判断が難しくなる場合があります。靴下の型が決まっていなくてどこから履いても正解、という靴下を作りました。それがベストの答えかわからないけれど、まずは作ってみようというスピード感はすごくいい。そういう人たちと認知症の課題を持った人がつながると面白いなと思っています。

芝池

その靴下、面白いですね!すぐにアウトプットが出るのはわかりやすいです。

徳田

とくに認知症のテーマの場合、やってみないとわからないことも多いので、無駄打ちも含めて回数が必要になります。目的、マーケット規模、予算など3年くらいかけて色々検討してみたけれど何も生まれませんでした、というのではなく、まず作ってみようという機動力とアクションできるかが大事です。

認知症を次のステージへ橋渡しして
別領域でも問いの設定を
シフトすることにチャレンジ

芝池

これから超高齢社会が進み、認知症の方々も増えていくなかで、徳田さんは今後どう活動をされていきたいと考えていますか?

徳田

なにか課題があった時に、最初の気づきから多様性が生まれてアクションにつながり、そこからルールをつくっていくという段階に移っていきます。課題のライフスパンで考えると、僕自身は最初が楽しくて、大事だけど「仕組化したり財源を確保する」後半の段階にはあまり興味が無いんです。認知症の課題は、既に仕組化の段階に移ってきているので、僕自身が提供できる価値は終わったとも感じています。今後はこれまで自分がやってきたことを次のステージに進めるために、調整することがミッションかもしれません。
認知症の課題は抽象的にいうと、「当事者の主体性VSパターナリズム」なんです。つまり、放っておくとパターナリズムが強くて、あなたはこうしたら幸せでしょと外部が勝手に決めてしまう。だから、当事者の声をみんなで聞いて考えるということをこの10年間やってきて、認知症の分野でも当事者主権がやっぱり大事なんだということはある程度認識されるようになってきたかなと思います。ここから先は、ものづくりやデザイン、サービス設計など様々なプロたちがいるので、その人たちが活躍していくのではないかと思っています。
逆に、10年前の認知症と似たような状況にある別領域のテーマに入っていって、ゼロから学ばせてもらうのも面白いかなと思っています。

芝池

課題のライフスパンというのは、とても興味深いですね。お会いすると時々話されているニュージーランドでワイナリーをやられるかもしれないというのもつながっているんでしょうか?

徳田

ワイナリーをやるかどうかはまだわかりませんが、今年から、週末にワインづくりの学校に通って勉強を始めました。純粋に農業や製造業として考えると、ワインづくりは初期投資が大きい割に儲からないビジネスなのですが、食やお酒には人を魅了するものがあり、ワインを核に人をつなげたり、地域の資源循環をつくっていくということであれば、たくさんの可能性があるのではないかと思っています。フューチャーセッションズ流に言えば、ワイン造りを巡る問いの設定を変えうるにおいがしているので、まったく別領域でも飛び込んでいって10年ぐらいかけて問いの設定をシフトするような仕事ができたら面白いなあと妄想しています。

芝池

別領域であっても、問いを再設定して、そこから課題解決の仕方を変えていく、新たな動きを生み出していくというステップは同じですよね。先ほどのパターナリズムを変化させたい、という話も腑に落ちました。フューチャーセッションの特性として、権威主義の反対で、みんなの中に答えがあると信じてみんなでつくることに理想があると思うんです。フューチャーセッションズには、日本社会のパターナリズム的な特徴に対して問題意識を持っているメンバーが多いからこそ、本質的な思想の方向性としても徳田さんとは重なる部分が多いということを今日改めて感じました。

編集後記

フューチャーセッションの本質について、徳田さんや「認知症まちづくり」の取り組みから教えていただいたことがたくさんあります。今回も、まさにそんな時間になりました。認知症まちづくりにおける課題や問いの設定の仕方が、他のテーマでも参考になることが多いのですが、それは「当事者の主体性VSパターナリズム」という構造の類似性があったからか!と言語化されてしっくりきました。また課題のライフスパンに関しても、気づきを主体的なアクションにつなげていく前半のフェーズとフューチャーセッションの相性は良いけれども、仕組みや制度にしていく後半のフェーズはどうするのか、また一つ考えたいテーマをいただくことができました。

(芝池)

プロフィール

徳田 雄人(とくだ たけひと)
株式会社 DFCパートナーズ

2001年東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。09年にNHKを退職し、認知症にかかわる活動を開始。100BLG株式会社取締役。著書「認知症フレンドリー社会」(岩波新書)

芝池 玲奈(しばいけ れな)
株式会社フューチャーセッションズ

学生時代から開発教育ワークショップの企画やファシリテーションに取り組み、卒業後は大手研修会社にて講師を勤める。IT系/ビジネス系/新人研修/海外研修員向け研修など、幅広く講習会を実施するかたわら、問題解決などの研修を開発。2013年6月より、新しい未来を創っていくために、株式会社フューチャーセッションズに入社。セクター横断のイノベーションプロジェクトや、組織内ファシリテーターの育成を通じた組織開発・変容プロジェクトを、企業や自治体などで多く手がけている。