プロジェクト事例 PROJECTS
住友化学「SYNERGYCA共創ラウンジ」

住友化学の技術を新たな価値創造につなげるため、社会ステークホルダーと対話を行う共創の場を設計する

概要

プロジェクト期間
2021年12月〜現在継続中
課題・背景
「SYNERGYCA共創ラウンジ」で社会ステークホルダーとのつながりを心地よく深化させ、共創の新境地を切り開くには?
支援内容
共創プログラムのファシリテーション部分の基本パターン設計、開所後のファシリテーション案件ごとのファシリテーション設計・運営
体制

プロデューサー/ディレクター:筧 大日朗(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:芝池 玲奈(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:宮武 洋一(フューチャーセッションズ)

「化学の力」を基盤に開発した多岐にわたる製品で人々の暮らしや未来に貢献し続けている住友化学。2021年12月、社会ステークホルダーと対話を行いながら、住友化学の技術を新たな価値創造につなげるアイデアを生み出す場として、「SYNERGYCA共創ラウンジ」が生まれました。その名称にも、化学(=CA)の力でシナジー(=SYNERGY)を生み出したいという想いが込められています。

SYNERGYCAには「集う」「体験する」「交わる」3つの場が設けられています。
「集う」は、アイスブレイクのための自己紹介、当日のアジェンダ紹介や雑談ができる場。

「体験する」では、住友化学の技術や歴史を知り、共創のきっかけを得ることができます。

そして「交わる」では、「招待者」と呼ばれるSYNERGYCAを利用する住友化学グループ社員が、多様な立場の社外の方を招き、お互いの課題や関心を共有しながら、新たな価値創造に向けての対話を行います。

フューチャーセッションズは開所の準備段階から、共創プログラムの設計、ファシリテーション担当として参画しました。
今回は、SYNERGYCAを運営する5名の方々にお話しを伺い、共創の場を立ち上げた経緯や社内外での反応、これから目指す未来について想いを語っていただきました。

クナップ カルロスさん:
住友化学(株)技術・研究企画部担当部長SYNERGYCA共創ラウンジダイレクター。固体触媒の専門(博士(化学))。2000年から住友化学で15年間研究、2016年から事業部門とコーポレート部門での研究や技術開発関連の企画。2020年からSYNERGYCAのプロジェクト企画、立ち上げと運用を担当。

大井 伸夫さん:
住友化学(株)技術・研究企画部主席部員SYNERGYCA共創ラウンジコーディネーター。高分子合成の専門。1990年から住友化学で20年間研究。その後、事業部で営業や事業企画を担当。2023年1月よりSYNERGYCAに配属。

松見 志乃さん:
住友化学(株)技術・研究企画部主席部員SYNERGYCA共創ラウンジナビゲーター。高分子の専門。1998年から住友化学で23年間研究。2021年4月よりSYNERGYCAに配属。

吉兼 芙美子さん:
住友化学(株)技術・研究企画部SYNERGYCA共創ラウンジナビゲーター。有機物性化学の専門。2008年から住友化学で13年間研究。2021年7月よりSYNERGYCAに配属。

大藤 柚さん:
住友化学(株)技術・研究企画部SYNERGYCA共創ラウンジナビゲーター。有機合成の専門。2021年から住友化学で2年間研究、2023年4月よりSYNERGYCAに配属。

ストーリー

社内外の声を聴き、対話を重ねて共創の場に必要な機能を考えた

——最初に、社内に共創の場をつくることになった経緯について教えてください。

クナップさん) 近年、地球環境の状況は深刻さを増していて、企業もそれらの課題に向き合い、解決に向けて動かなければなりません。このような課題には、一社だけで取り組むことは難しく、他の企業や、あらゆるステークホルダーと協力しなければならないという認識もありました。社外の方々との交流の場をどうしようか、という話題は以前から社内で度々持ち上がっていました。

住友化学の本社を移転するタイミングで、そのような場をつくろうというプロジェクトが立ち上がりました。最初は社内の立場や年齢も異なる様々なメンバー20名ほどで、「共創の場は本当に必要なのか」「必要だとしたら、共創の場に必要な機能とは何か」ということについて、6か月のワークショップで本格的に議論を行いました。

その中で、「社外の方と話をする時に、自分の関わっている製品や技術については説明ができるが、そのほかの製品や技術、会社の歴史や未来に向けた戦略については説明ができない。」という社内の声が上がってきました。そこで、住友化学の製品や技術、歴史や未来への取り組みを体験できる機能が、共創の場には必要だということになりました。

また、雰囲気良く社外の方と対話できる手段や場所が欲しい、社外の方をおもてなしする場所が欲しいなどの声もあがりました。

同時に社外の方々のニーズも聞きました。「住友化学にはたくさんの技術や製品があるけれど、外から見てもそのことが分かりにくい」という悩みも見えてきました。

このような議論や意見をふまえて、住友化学のことを知ってもらい、リラックスしながらフラットに対話ができる場をつくろうということになりました。

SYNERGYCAが提供する「集う」「体験する」「交わる」の3つのステップもこの過程で出来上がったものです。

­­­­——SYNERGYCAの「集う」「体験する」「交わる」の3つのエリアでは、それぞれどのようなことができるのでしょうか?

クナップ)「集う」は、ゆるやかに丸く仕切られた空間で車座になり、自己紹介や雑談を行う、いわばアイスブレイクの場です。
インタビューはSYNERGYCA共創ラウンジ「集う」エリアで行われました。

「体験する」では、住友化学の歴史、技術、製品などに触れられます。せっかくなら楽しく体験してもらいたいと思い、最新のデジタル技術やVR動画を用いたコンテンツ制作も行っています。


そして、自由な発想で対話を行う場が「交わる」です。SYNERGYCAで最も大事なのはやはり「交わる」の部分。最初は社内メンバーでそのファシリテーションができないかと検討したのですが、プロの力を頼ろうとフューチャーセッションズさんにお声がけしました。そのおかげで、短時間でも質の高い対話を実施できています。


——ありがとうございます、とても嬉しいです。
最初に抱えていた課題はどのようなものでしたか。

クナップさん) 共創の場を作ることは初めての試みだったので、社内で受け入れてもらえるか不安でした。フューチャーセッションズさんが一緒に本気で取り組んで、社内で柔軟に受け入れてもらうために大きく貢献してくださったと感じています。本当にありがとうございます。

——SYNERGYCAの企画がある程度進んでから、新たに運営メンバーに加わったみなさんは、当初、どのように感じていましたか。

松見さん) コンセプトを聞いて、とても良いプロジェクトだ!とポジティブな気持ちになりました。私が研究所にいた時、大学の先生など社外の方と共同研究する機会が多くありました。その時に「住友化学さんってこんなことやってますよね?」と聞かれても、自分の専門外のことだと答えられないことがよくありました。自社が持っている技術を新しい研究に活かそうとする時にも、自分に関係する技術分野にしかアイデアが湧かなくて困ることもありました。
SYNERGYCAが住友化学の技術や製品についてきちんと理解し、対話できる場所だと知って、とても嬉しかったです。同じような悩みをみんな抱えていたけれど、なかなか行動に移せていなかった。実際に声を上げて形にしようと言ってくれた方々に感謝する気持ちになったのを思い出します。

吉兼さん) 研究所にいた時に、新しい研究テーマを立ち上げようという場面が何度もあったのですが、毎回とても苦労していました。参加していたメンバーはいつも四苦八苦していて、どうすればもっと上手くアイデアを出していけるのか、課題として常に頭の片隅にありました。その課題解決に向けた、効果的なツールになりうるSYNERGYCAに参画できると思うと、とてもワクワクした気分になりました。


研究職の私たちが運営するからこそ実現できることに気づいた

——共創空間があり運営メンバーがイベントを企画する事例は他社でたくさんあると思うのですが、招待者の方を中心に共創プログラム設計をしていくSYNERGYCAでの仕組みは、とても画期的でしたね。

クナップさん) 私たちも様々な共創空間を見学し、運営方法の参考にしました。そこでたどり着いた考えが、SYNERGYCAとその運営メンバーは対話をする方々の間に入り、その場が生み出すエネルギーを最大化するのが役割だということ。人と人の間の反応を助ける『触媒』のようなイメージです。それこそが、SYNERGYCAが提供する価値だと考えています。

——SYNERGYCA運営の協働パートナーとして、数ある企業の中からフューチャーセッションズを選んでくださったのはなぜだったのでしょうか。

クナップさん) 主に三つの理由があります。
1つ目は、ファシリテーションへの姿勢です。フューチャーセッションズさんに出会うまでは、日本で見ていたファシリテーションについて、何か難しいことを教える先生のようなイメージがありました。すでに答えがあって、そこに向かって必要なことを教えて導いていくような。
でも、SYNERGYCAは「触媒」であり、エネルギー源となる主役は参加者です。SYNERGYCAが主役になって教えたり、導いたりするのは避けたいことでした。考えを押しつけたり、無理やり答えを導こうとせず、その場のもつ力を最大限に引き出すフューチャーセッションズさんのファシリテーションは、まさに私たちが理想としていた方法でした。

2つ目に、フレキシビリティです。対話の主役はファシリテーターではなく、招待者や社外の方だからこそ、一つひとつの共創プログラムに対して柔軟に対応していかなければなりません。フューチャーセッションズさんは、対話について様々な知見があり、対話に参加する人々のことを尊重しながらフレキシブルに対応していらっしゃると感じました。

最後に、柔らかさ。多様な立場の方がいらっしゃるSYNERGYCAにおいて、話しやすい場の雰囲気をつくることはとても大切です。どんな時もその場にあったやり方で、柔らかい雰囲気でファシリテーションしてくださるのは毎回とてもありがたく感じています。

——実際に、フューチャーセッションズと協働してみた感想はいかがですか。

大藤さん) セッションでは毎回目指すアウトプットが様々あると思うのですが、そのアウトプットに合わせて、セッションを瞬時に軌道修正しながら進めていく様子は圧巻でした。これまで、アイデア出しをした後、どう議論をまとめていいのか分からなかったのですが、プロのファシリテーションを目の当たりにして、学びが増えてきました。

大井さん) ファシリテーションの方法も色々あって、こんなにも奥が深いのか!と興味深く感じています。最初は分からないことだらけだったのですが、一緒に取り組んでいくにつれて、少しずつファシリテーションのやり方も分かってきて。とても面白くなってきたと感じているところです。

松見さん) SYNERGYCAを利用した招待者が、共創プログラム設計を行うときに、フューチャーセッションズさんのやり方からたくさん学ぶことができた、自分のやりたいことを具現化させるための方法が非常に勉強になったと言っていました。社内の人たちの思考はどうしても似てくるものだと思うのですが、SYNERGYCAで共創のプロセスを学んだ人が社内に増えていけば、社内の思考も多様化して、よりたくさんのアイデアが生まれていくのではと期待しています。

——現在のSYNERGYCA運営メンバーの皆さんは全員研究職のご出身なのですね。

松見さん) 今まで研究がメインだったので、SYNERGYCAにきた当初は、共創プログラムの設計の方法や、利用者の方々とのコミュニケーション方法など、最初は慣れないことばかりでした。苦労しながら何ヶ月か運営を続けていくうちに、こうやったら利用者の方々に喜んでいただけるということも分かってきて。そして、私たちが自然体でいる方が利用者の方々の反応も良いということに気づきました。運営者として慣れないこともある一方で、技術や製品について表面的ではない深い理解があり、そのことについて意欲的に、詳細な話をすることができます。そういった部分が利用者にも伝わって、良い反応がいただけたのだと思います。

クナップさん)あるとき、社内の議論でSYNERGYCAについて、「施設だけではなく、運営メンバーの対応も大きな役割を果たしている」と言われたことがあります。私たちが研究者として持っているイノベーションに対する意欲は、コンテンツだけではなく、私たち自身の姿勢からも伝わっているんだとハッとしました。もっと自分たちらしくいていいと気づき、居場所を見つけた瞬間でした。

私たちは、住友化学を紹介する動画コンテンツも制作しているのですが、その動画の中では、「私たちの会社や技術、製品は素晴らしい」ということは言おうとしていません。技術は常に進歩していくものであり、完成がないという研究者としてのマインドがここにも反映されているからです。このマインドは共創の場において、発想を広げるのにも役立つと思っています。最初は慣れないことばかりだと感じたこともあった研究職出身という立場に、活かせる強みがあると気づくことができました。

SYNERGYCAは私たちの家。「また来たい」と思ってもらえる空間にしたい

——SYNERGYCA運営において、皆さんが大切にしていることについて教えてください。

クナップさん) SYNERGYCAには、どんなことでも最初から最後までメンバーはきちんと関わるということです。私たちにとってSYNERGYCAは、私たちの「家」のようなイメージです。実際に利用者にお茶をお出しすることから、共創についての相談を受けたり、そのプログラムの設計まで自分たちが行います。「交わる」のファシリテーションに関しても、フューチャーセッションズさんに全てをお願いしてあとはお任せ、ということではなく、一緒に考えて取り組んできました。私たちのチームでは、共創は、会社など、あらゆる垣根を越えて取り組むからこそ良いアウトプットが生まれると思います。

吉兼さん) 来た人にできるだけ「楽しい!」と感じて欲しいと思っています。あとは新しいアイデアや気づきが得られる場所にしたいです。何気ない対話の中に、新しいアイデアにつながる何かがあることは多いと思います。フューチャーセッションズさんは、セッション前の招待者との事前打ち合わせの中で「参加している方は、この状態で本当に話しやすいですか」「これは、皆さんが本当に話したい内容ですか」と、利用者の方々の気持ちに寄り添ってくださって。だからこそ色々な気づきが得られるセッションになっているのだと思います。私は運営メンバーとして「あれもこれも」と、準備などで忙しくしてしまいがちなので、見習って利用者の方々の気持ちに常に気配りできるようにならなければと思っています。

大藤さん) 会社の中で、共創を行うことの難易度を下げることがSYNERGYCAの役割だと思っています。招待者の方々も、共創をしたいけど何をどう進めていいか分からない状況であることが多いと思うので、招待者に寄り添い意図をしっかり汲み取って、潜在的なニーズまでもっと引き出せる存在になりたいです。フューチャーセッションズさんからもその方法を日々学んでいます。

大井さん) 私は、「体験する」のコンテンツを主に担当しているので、それによって利用者のモチベーションを上げられたらいいなと思っています。住友化学のことを知っていただくのはもちろん、「住友化学って面白い!」と思っていただくプラスアルファがとても大事なのかなと。VR動画などを見て、ワクワクした気持ちで共創の対話に入っていける流れをつくれたら、と思います。

松見さん) 社内の方に「仕事って楽しいな」と思ってもらえるような場にしていきたいと思います。仕事には大変なこともあると思うのですが、色々な人と話すと案外解決策が見えてくるということや、住友化学の中で色々なことができるということを感じてもらえたらいいですね。社外の方には、「今日来て本当に良かった、住友化学とだったら、また話したいし、色々なことに一緒に取り組みたい」とポジティブに思っていただける運営をしたいです。

­­——最後に、SYNERGYCAとしてこれから取り組みたいことについて教えてください。

クナップさん) 2年弱やってきて、共創の場や必要な機能の検証はある程度できてきました。これからは次のフェーズとして、SYNERGYCAをさらに多くの社内外の方にも利用していただけるよう、社内の方との繋がりをより強くしながら、住友化学の外との繋がりの促進にさらに貢献できるようにしたいです。

大井さん) 例えば今後、住友化学の事業や製品に関するプレスリリースが出た時に、「以前にSYNERGYCAで話していたネタだ!」と盛り上がっていただけるような、ワクワクする場所をつくりたいと思います。

大藤さん) 社内の人が共創に関して困ったことがあったときに、「SYNERGYCAに相談してみよう!」とすぐに思いついてもらえる存在になって、利用がもっと広がったら嬉しいです。フューチャーセッションズさんのお力を借りながら、これからも共創に向けたノウハウを増やしたいです。

吉兼さん) より幅広い社内の方々に使ってもらいたいなと思います。そして、SYNERGYCAの利用をきっかけに、自由な発想で対話を重ねていく風土が社内で醸成されることを願っています。

松見さん) 私たちの仕事は、アイデアのタネを見つけて、水をやり、育てていくことに似ていると思います。アイデアのタネは全て同じお世話の仕方では上手く育たないので、色々なノウハウを使って、一つひとつの案件に合わせた水のやり方が必要です。社員の方に、共創について何か困ったことがあったら相談をしてもらえるような関係性を目指したいと思います。

クナップさん) 住友化学でのファシリテーションの価値は、これからますます最大化されていくと思います。その価値にすでに気づき、助けられている人も増えています。フューチャーセッションズさんにお力添えいただき、私たちはここまで進化することができました。SYNERGYCAでの取り組みが本当に楽しいです。フューチャーセッションズさんも楽しく取り組んでくださっていたら、本当に嬉しいです。

——もちろんです!これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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