プロジェクト事例 PROJECTS
【自主企画セッション】フューチャーセッションズ共創総会2023

共創X:AI、自然、人間との共創の可能性を探る

概要

プロジェクト期間
2023/12/05 (火) 14:00 ~ 20:00
課題・背景
AI、自然、人間との共創を進めるためにはどうしたらいいだろうか?
支援内容
対話イベント企画・ファシリテーション
体制

フューチャーセッションズ全社員

ストーリー

フューチャーセッションズ(以下、FSS)が、共創に取り組むパートナーと一緒に、“今”深めたいテーマについて対話し、共創を次の段階に進めていくための自主企画セッション。

今回のセッションのグランドテーマは「共創X 」です。
生成AIの登場により、改めて人間の役割が問われると同時に、AIとの共創のあり方を考えざるを得ない状況となっています。
また、気候変動による環境への影響は年々深刻化しており、私たちの生活の基盤となる自然との関係を早急に見直すべき時に来ていると言えます。
人間だけでなく、AI、自然との共創が必要となる時代に求められることについて、3つのサブテーマを設定してゲストと参加者の皆さんと対話し、未来の共創の可能性について探りました。


共創3つのサブテーマ

1. AIとの共創
「AIと人間がもっとも効果的に共創できる領域はなんだろう?」

ゲスト:武蔵野大学 中西 崇文さま
筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発等に従事。2014年より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授・主任研究員、テキストマイニング、データマイニング手法の研究開発に従事。2018年、武蔵野大学工学部数理工学科准教授。2019年より現職。現在、独自の説明可能なAI(XAI)技術であるAIMEを軸に、システムの研究開発やそれらのビジネス、サービスの立ち上げを目的とした企業連携研究プロジェクトを多数推進中。

2. 自然との共創

「地球・人々・利益(Planet, People, Profit)の心地よいバランスを共創するには?」

ゲスト: 立教大学 奇二 正彦さま
立教大学文学部卒業後、ニュージーランドのアートスクール、岐阜の自然学校、動物写真家平野伸明氏の助手、環境コンサル等を経て、現在は立教大学スポーツウエルネス学部准教授、株式会社生態計画研究所特別研究員、プシュケ環境教育研究所所長。


3. 人との共創

「なぜ人は共創するのか、どのような共創を起こしたいのか?」

ゲスト:長野県立大学 秋葉 芳江さま
民間企業勤務後、起業。社会的事業創出と起業家支援に注力。2015年より京都市ソーシャルイノベーション研究所、2018年より長野県立大学、ソーシャル・イノベーション創出センター立ち上げを担う。県内の起業支援、ソーシャルビジネス創業支援、SDGs普及、持続可能経営支援等に関わる。大学では、価値創出、実践的なソーシャルビジネスプランニングを担当。大学院では、事業構想演習、リサーチ演習等を担当。


イントロ:共創によって複雑な課題を解決する

はじめにFSS代表の有福から、今回のセッションの目的についてお話ししました。

有福)昨年からリアルに対面で対話をする自主企画セッションを行っています。私たちがプロジェクトを通して出会ったパートナーの方々と皆さんがつながる場を定期的につくり、対話による相乗効果を上げていきたいというのがこのセッションのねらいです。
今回のテーマは「共創X」。ChatGPTなど生成AIの登場によって私たちを取り巻く環境は大きく変化しました。同時に課題も複雑化していますが、共創によって解決できることもあると考えています。
ではどのような方法で、何を目的に共創していけば良いのでしょうか。今回は「AIとの共創」「自然との共創」「人との共創」の3つをサブテーマとして対話をします。

各テーマについてゲストからのインスピレーショントークの後、フィッシュボウル形式で対話を行います。ファシリテーターとゲスト以外に4名の方が真ん中の円に加わって各テーマについて対話を進めていきます。空席を一つ用意しておきますので、話したくなった人は外側から入り、代わりに十分話し終えた人は外側に出ます。

【インスピレーショントーク①:AIと人間がもっとも効果的に共創できる領域はなんだろう?】

最初のインスピレーショントークは、データマイニングや説明可能なAI(XAI)を専門とされている、武蔵野大学データサイエンス学部データサイエンス学科長・中西さんによる「AIとの共創」です。

 

■ChatGPTは結果の説明をしてくれない

中西さん)まずは、機械学習を学ぶ時の練習問題に使うデータ「タイタニックの乗船者と生き残った人」をChatGPTを使って分析してみましょう。70%を機械学習に訓練させて、30%でテストをしてどれぐらいの精度が得られるかを見てみます。ChatGPTはたとえ欠損値があっても埋めて分析もしてくれます。
これまで大学で1年間かけて教えていたことも、これを使えば10分間で終わらせることが可能になりました。
ただ、現時点ではなぜその結果を出力したかについてまでは教えてくれません。
AIトラブルの例として、Googleがフォトアプリで黒人の顔写真をゴリラとしてタグ付けした、ということがあります。機械学習はデータを学習すればするほど賢くなりますが、「どうすれば黒人画像にゴリラのタグ付けをしないようにするか」ということはわかりません。
対策として、ゴリラと認識した時には「検索結果なし」と表示させることにしました。しかし、これではAIのエラーや差別を根本的に取り除いたことにはなりません。そこで必要となるのがXAI(説明可能なAI)です。

■生成AIの次に来るXAIとは

中西さん)先日イタリアで参加したトップカンファレンスで、優秀論文賞の論文4本のうち3本がXAI(説明可能なAI)に関するものでした。このことからわかるように、次に来るAIはこのXAIです。
AIに新たに求められているものとして、Fairness(公平性)、Accountability(説明責任)、 Transparency(透明性)があります。技術面から言うと、これらはXAIが解決してくれるのではないかと考えます。
私は9月にXAIのひとつであるAIME(近似逆モデル説明)という技術を提案しましたが、AIMEでは結果に対して後ろから逆算して説明することが可能となっています。

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人間とAIの共創についてのまとめとして、以下の3点が挙げられました。
1. お互いに知らなければいけないことが多すぎる。
2. 本当に対話ができるのはいつだろう。(なぜということを聞かないといけない。)
3. AIが人間を飛び越した存在である以上、人間に寄り添う方向性を見出さないと、人間とAIの共創は無理ではないか。


【フィッシュボウル①:AIとの共創】

インスピレーショントークの後は、AIと人間の共創の可能性について、参加者の皆さんと対話をしました。

筧)XAIになって変わり得ることはどういうことでしょうか。XAIが説明した回答を人間は正しいと判断することはできるのでしょうか。

中西さん)今までのAIだと答えられなかった根拠がXAIだと返ってきます。例えば医療現場へのAI導入が遅い理由として、根拠が無いために重要な判断ができないということがあります。今後の共創のためには、重要な時にきちんと根拠を示してくれることが求められます。
参加者A)AIと共創するには人間もリテラシーを求められるし、進化しないといけないと思います。現状ではAIはあくまでもツールで、対話するというレベルには至っていません。本当に対話ができるようにするにはどうしたら良いでしょうか。

中西さん)今はどうプロンプトを入れるかというエンジニアリングである状況ですが、それをコミュニケーションにしていかないと共創とは言えないと思います。まだデータ数が少なく、思ったようにはやり取りできていない段階です。

参加者B)大学生ですが、レポート作成などでChatGPTの使用を禁止されています。実際には使いこなしていますが、こうした状況をどう考えられますか。

中西さん)私は「ぜひ使って下さい」という立場です。大学で行っているプログラミングの課題では、ChatGPTでデバッグできるので質問がゼロになりました。学会でどのように扱われているかですが、サイエンス誌以外では使用を認めており、これを使わない手はありません。

参加者C)AIは人間のコミュニケーションの相手になり得るでしょうか。コミュニケーションには、思いもよらない反応やバグや余白といった要素があります。たまに間違えたり黙ってしまうロボットとしてのAIであれば設計できそうだと感じます。

中西さん)AIが事実に基づかない情報を生成してもっともらしい嘘を付く「ハルシネーション」という現象があります。どうしてハルシネーションを起こしたかわかれば、そこからコミュニケーションの相手としてのAIの可能性について新しいアイデアが見つかるかもしれません。また、人間が変化していくようにAIも変化を学習するという世界になっていくのではないでしょうか。
実は今のAIは時系列分析が苦手なのですが、人間は時系列の中に住んでいるので、そこが欠けていることは考えられます。

参加者D)AI同士がネットワーク上で学び合い、特定の思想や偏った価値観のAIが生まれ、それが社会に拡散されて逆に人間が学習してしまうような未来が来てしまわないか心配です。

中西さん)既に、囲碁や将棋では人間がAIの打つ手を学んでいて、これからはAI同士がネットワークでつながり学び合うことも想定されます。。使い方によっては悪用する人も出てくることが懸念されますが、やはりこれからはAIもネットワーキングして対話をできることが重要ではないでしょうか。

【インスピレーショントーク②:地球・人々・利益(Planet, People, Profit)の心地よいバランスを共創するには?】

続いて、立教大学・奇二さんから「自然との共創」についてのインスピレーショントークです。はじめにFSSの芝池から、このテーマを設定した背景をお話ししました。

芝池)昨年モントリオールで行われたCOP15では、生物多様性について2030年までの国際目標が定められました。その後から、ネイチャーポジティブという言葉を耳にする機会も増えたように思います。
国際目標として設定されるインパクトを感じると同時にその強制力も感じますが、目標設定されたからやらざるを得ないではなく、心地よく自然と共創することはできないか、また日本らしい共創のやり方があるのではないかという疑問から今回のテーマを設定しました。今日の対話を通して、一緒に何か発見ができればいいなと思っています。

 

■満天の星空を寝っ転がって見る体験

奇二さんは、人と自然の共生をテーマに、自然体験と畏敬の念やスピリチュアリティの醸成に関する研究を行っています。

奇二さん)まず、ひとつの研究成果をご紹介します。人が自然に対する畏敬の念やスピリチュアリティを抱くのにどんな自然体験が強く関係しているのかを調査すると、圧倒的なのが満点の星空を寝っ転がって見る体験でした。次が生き物を殺して命をいただく体験、そして身の危険を感じるような体験、この3つという結果になりました。

自然の力を使ってネイチャーポジティブを達成する

一言で「自然との共創」と言っても、その取り組み方や関わる人たちは様々です。
奇二さんがこれまで関わられた事例を挙げながら、自然との共創の可能性についてお話しいただきました。

奇二さん)私は環境コンサルタントとして公園で仕事をしていたので、自分のフィールドで「その土地の価値を掘り起こして保全する」ということをやってきました。
土地の価値というのは、まずは気象条件によって生息する植物が違うというような地学的環境。そして、生物学的環境、人文学的環境など全てが相互に影響し合います。これらは動的に変化し続けて、人間がうまく手を入れてやれば生物多様性が豊かになっていくんです。この自然の力をうまく利用することで、ネイチャーポジティブを達成することはできると考えています。そのために、土地の価値と環境教育を大事にしています。

【事例1】大手デベロッパーのマンションプロジェクト
奇二さん)大手デベロッパーによる日本最大級のマンションプロジェクトで、緑地の生物多様性を豊かにするという案件がありました。
まずは周辺を歩いてどんな生き物がいるか、現状を把握します。都市にも多様な生き物が生息していますが、デベロッパーからはクレーム対策もあって、限定した生きものだけを呼んでほしいという条件が示されます。
そこで、限定した生きものを対象とした緑地を計画したのですが、それができた後に実施したコミュニティ形成イベントは、その緑地だけでなく、都市公園や里山までもフィールドにして観察会を行いました。今では物件が200件にもなり、その拠点同士のつながりによるエコロジカルネットワークが創出されています。

【事例2】那須にある森林ノ牧場
奇二さん)那須の森林ノ牧場は、放置された森林を買い取って牧場を作り森林の生態系を残した牧畜が行われている素晴らしい牧場です。
この牧場が作ったGOOD NEWSという観光施設が人気となって急激に企業規模が拡大したことで、インナーブランディングが必要となりました。そこで、スタッフ全員でやったのが自然調査です。
生き物を撮影するとデータを示してくれる、バイオームやiNaturalistといったアプリも活用しながら周辺の環境を調査していきます。調査を通して自然への愛着も沸いたところで、リスや野鳥の巣箱を作ったり、バタフライガーデンを作るような保全のアイデアを提案しました。
このように、土地の価値を掘り起こして、それを環境教育の手法を使って評価することで、自然が自然と増えていくお手伝いを継続して行っています。

【フィッシュボウル②:自然との共創】

奇二さんによるインスピレーショントークの後は、自然と人間の共創の可能性について探索します。

参加者A)自然教育という点で考えると、子どもの原体験が大事だと思いますが、今はそれが足りないと感じます。自然を対立するものと捉えずに認識していくためにも、現代に必要な視点は何でしょうか。

奇二さん)二つの象徴的なエピソードをご紹介します。
一つはリスクマネジメントという側面について。西東京では木の伝染病でナラ枯れが進んでいて、枯れた木を切った後にカエンタケという猛毒をもったキノコが生えることがあります。幼稚園の園庭に生えたカエンタケを、自然好きで図鑑マニアの男の子が発見して駆除できたということがありました。自然は危害を与える存在でもあるということを知ることは大切です。
もう一つは直接体験の重要性について。複数の家族でキャンプに行って焚火をした時に、爆ぜた燃えカスを素手でつかんだ5歳の男の子がいました。その子はタワーマンションのオール電化の家に住んでいて、本物の火を見た経験が無かったんです。火の熱さを経験したことで、そこから火と自分の関係性を作ることができました。

スウェーデンでは小学校の教科に環境教育があって、直接体験と知恵の両方を義務教育で学ぶので、誰とでも議論をすることができます。日本でも自然学校がその役割を担っていけるのではないかと考えています。

上井)自然との共生の可能性を考えた時に、地球をより良くしていくお金の流れについて関心がありますが、どうでしょうか。

奇二)国際的な枠組みであるTNFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が設立されて、企業に情報開示が求められるようになったことは一つの良い流れだと思います。それが投資判断に影響するようになると、企業としてはアクションをしていかないといけないですし、具体的なアクションを取るためのインナーブランディングにお金が使われ始めています。

参加者B)自然の中で行われるアクティビティに参加することも自然との関わりを持つことではありますが、そこにあるのは綺麗に作られた自然で、自然の仕組みの中で自分たちがどう生活しているかのリアルさに欠けると感じます。

奇二)自然をただ消費するだけで終わってしまわないようにする必要はあると思います。自然に全く興味が無い人から既に行動している人まで、自然との関係性のフェーズは人によって様々なので、そのフェーズに応じてどんなアクティビティや教育をするかを考慮したプログラムが大事ではないでしょうか。

芝池)今日は人間と自然の関係性をどう紡げば良いのかを皆さんと一緒に考えました。自分本位になるのではなく、自然も人間も幸せになるようなアプローチを引き続き探って行ければと思います。


【インスピレーショントーク③:なぜ人は共創するのか、どのような共創を起こしたいのか?】

最後は、長野県立大学・秋葉さんからのインスピレーショントークです。ここまでAI、自然との共創について対話を進めてきましたが、最後はなぜ人は共創するのかというテーマでお話しいただきます。

■共創するための3つの手がかり

秋葉さんは、人を幸せにしないシステムは意味がない、という想いからソーシャルビジネスに関わるようになり、これまで新事業創出や起業家支援をされてきました。
2000年頃からソーシャルアントレプレナーという言葉が日本に広がり、社会をより良い環境にしていくにはソーシャルイノベーションが必要だという機運が高まったという背景もあります。

秋葉さん)社会的課題が複雑で解決できない現代では、自ら問いを立てて向き合い、解を創出し、価値創出していくことが求められます。問いの立て方や問いそのものが重要であって、そもそも一人でするのは難しく、共創することが必然となります。

そこで、共創するための3つの手がかりとして、次の3つを挙げたいと思います。

1. ソーシャル・イノベーション
・個人よりは社会全体の価値の創出を目指す
・社会課題に対する全く新しい解決策
・既存の解決策よりも高い効果、効率がいい、持続可能、公正のいずれかを実現
・人々のマインドセット、思考回路そのものも変えるイノベーション

2. アントレプレナーシップ
・企(起)業家精神
・社会の中で主体的に働き方を選択する思考と振る舞い
・自分と社会の幸せを両立し、しなやかに生きるための能力・姿勢(出典:日本総研)

3. コレクティブインパクト
・「どのような共創を起こしたいのか」に対する解
・集団的行動とは異なり、集合的なインパクトを起こすのがコレクティブインパクト

■コレクティブインパクトが成功する5つの条件

では、どうしたらコレクティブインパクトを成功させることができるのでしょうか。秋葉さんは、SSIR-J(スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版)から、次の5つの条件を挙げました。

1. 共通のアジェンダを持てること

2. 共通の計測システム
3. 相互に補強し合う取り組み
4. 継続的なコミュニケーション
5. 活動をサポートするバックボーン組織

さらに昨年再定義されて、「エクイティ(公平性)の向上を目指す」という観点が強調されています。

秋葉さん)私たちはどのような未来を望むのか。望む未来に向けて自分がすることは何だろう。それに対する方法論の一つがコレクティブインパクトなのではないか、という問いを投げかけて終わりたいと思います。

 

【フィッシュボウル③:人との共創】

最後の対話では、なぜ人は共創するのかということについて、さらに議論を深めました。

有福)なぜ共創するのかということについて、いくつかのヒントをいただきました。共創することを前提とした場合、いわゆる意識が高い人とは共通のアジェンダを持って共創できるかもしれませんが、それ以外の人と共創を進めるにはどうすれば良いのでしょうか。

秋葉さん)世の中にはいろいろな人がいるので難しいですが、できるだけ多くの人を巻き込みたい。そのためには、北極星だけでなく北斗七星ぐらいの幅のスコープで巻き込むのが良いと思います。ゴールを近くに見据えつつ、笑顔で取り組むことも周囲を巻き込みやすくするのではないでしょうか。

参加者A)学校の探究活動のサポーターをやっていますが、意識が高いというのはそこに意識が向いているということだと感じます。中学生から意識を向けて少しずつ自分の興味を固めていけたら良いし、興味があることが一つ見つかるとそこから自然と共創に繋がりそうです。

有福)集合的なインパクトというのは大事な概念だと思いますが、「どうやると集合的になるのか」というのが難しい。それぞれが持ち寄るという感覚は、一つのヒントになるかもしれません。

参加者B)まちづくりプロジェクトに関わっていますが、どうしてもイベント的な一過性のもので終わってしまいます。どうしたら継続的なものにしていけるでしょうか。

秋葉さん)それは皆さん共通の悩みで、イベントとはそういう性質のものかもしれません。ただ、それをつなげていくストーリーを語ることでイベントのインパクトは累積していきます。後からでもつなげて上手に意味づけていくことで、価値があると感じられれば良いと思います。

有福)最後に、秋葉先生の問いである「私たちはどのような未来を望むのか」ということを皆さんに投げかけたいと思います。

参加者の方からは、「世界中の人が制限を受けずに自分のやりたいことができる」、「選択肢が持てる」、「営利企業が社会課題を自分ごとにしていく」というような発言がありました。

秋葉さん)学生と接していて感じるのは、自分なりの価値観が持てていないということです。自分が望む未来も自分の価値観が無いと持てません。
ただ、自分で問いを立てる探究学習を小学校から学んできた世代が社会で活躍し始めていることは希望だと思っています。
自分なりの意思決定をして、選択ができることは大事です。様々な価値観の相手と言葉でコミュニケーションできることが理想ですし、その理想に向けて頑張るのは大人の責任ではないでしょうか。

有福)宮沢賢治の著書に「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」という言葉があります。個人に意識が向きすぎている世の中の傾向も気になりますし、こうした世界観を見直しても良いのではないかと感じています。

 

【クロージング】

AI、自然、人間との共創について対話を進めてきた「フューチャーセッションズ共創総会2023」。クロージングとして、有福から改めて3つのセッションを総括した後、ゲストの3名から感想をいただきました。

有福)
①AIとの共創
次に来るXAI(説明可能なAI)は、人の思考よりも複雑なものを複雑なまま捉えられる特性もあり、中身の理解に人間が追いつかないのではないか、というのはとても興味深かったです。また、現状ではまだエンジニアリング段階のAIが、コミュニケーションという形が取れるようになると共創になるのではないか、という示唆に富んだお話しもありました。今後は人間側のマインドセットも変えていかないとAIとの共創は難しいし、実際に「考える」とはどういうことか、という新たな問いも生まれました。

②自然との共創
自然とのつながりでは、知恵や体験をインストールすることで、畏怖の念を養っていくことが大事であることを感じました。
また、人と自然との関係性において誰を主語にするのかという議論がありましたが、ここは「分けない」というのが新たなものの見方なのかもしれません。あらゆるものがつながっているという感覚を取り戻すということや、リスクとメリットという相反するものを分け隔てなく捉えることが求められるのではないでしょうか。

③人との共創
コレクティブインパクトを目指す際に、人と社会、自分の幸せと社会の幸せを分けないという視点が大事なのではないかと思います。
そして、単発で終わらせずに文脈を作って意味づけを行い、意識的にプロセスとしてデザインすることがこれからの新しい共創なのではないかと感じました。

中西さん)
AIばかりで自然や人間との関わり合いということを忘れていました。出身が田舎で自然に囲まれて過ごしていたはずなのに、今は自然と関わっていないということを思い出させてもらいました。ChatGPTが機械学習までやってくれるという新たな時代に突入していることを実感すると同時に、人間とつながっていくことの難しさも感じました。

奇二さん)
私たちが現代人として文明の中で生きていて、自然から遠ざかった身体性を持ってしまっているということを実感しましたが、それは自然との共創の足掛かりになると思います。また、調査で人を自然に導くのにAIは相性がいいと感じました。
これまで問題を解決することばかりで、望む未来やみんなで共創することをあまり考えられていなかったので、これを機会にポジティブに考えていきたいと思いました。

秋葉さん)
こうした場で皆さんと議論できること自体が素敵だと思いました。私の望む未来は、これだったら未来が明るいに違いないと思える人たちをたくさん作りたいということです。今日のセッションから使えるかもというアイデアを見つけて、次のご縁につながったら嬉しいです。


【フューチャーセッションズのビール「Future Sessions IPA」のお披露目!】

最後のネットワーキングタイムにお披露目されたのが、FSSのパーパス・バリューを表現したクラフトビール「Future Sessions IPA」です。
ビールを作ってチームビルディングをするという目的で、大阪の中津でワークショップを行って醸造してきました。
「複雑な問題を解決する」という意図から、副原料には生産者が打撃を受けているホタテ、柿、りんご、かぼすが使われています。世界フェアトレード機関認証のバナナペーパーが使われたラベルにはアート研修でFSS社員が描いた絵がデザインされ、オリジナリティ溢れるビールに仕上がりました。


6時間かけてAI、自然、人間との共創の可能性を探った今回のセッション。複雑な問題を解決するには、一見つながりが無いように思える分野を横断しながら新たな発想で共創を進めることが求められていくのではないでしょうか。

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