【イントロダクション】

「本当の対話がきちんとなされてないのではないか、と思う時があります」
フューチャーセッションズ代表・有福の言葉から、第4回共創総会は始まりました。身内同士の気楽な対話から国際的な場面まで、様々なところで「対話は大事」と繰り返し言われる現代。「共創」という言葉も公共やビジネスなどあらゆる場で耳にする機会が多くなってきました。しかし、本当に真剣に向き合った対話による「共創」があらゆる場面でできているのでしょうか。
2025年6月26日、オフィスをはじめとした最適空間を提案する株式会社オカムラの共創空間「Open Innovation Biotope Sea」にこれまでの共創総会で最も多い約70名が集まりました。
初めて共創の場に参加する方も多くいた第4回共創総会
株式会社オカムラの岡本さんからのご挨拶。この場所は「波打ちまざり、つながる場」というコンセプトで、 東京という多様な人々が集まる場所の面白さを引き出し、様々な大学、企業、自治体との共創イベントやプロジェクトを推進しています。
今回のグランドテーマは「共創の根源」。複雑化する時代に求められる「共創」を問い直し、AIが進化する中で人間が本質的にやるべきことを探る6時間の対話が始まりました。
会場には、多様な業界から参加者が集結。フューチャーセッションに何度も参加したことがある方だけでなく、初めて参加する方も多くいらっしゃいました。今回の共創総会で浮かび上がったのは、「共創」が広がる時代の影に隠れた課題と、それを乗り越える新たな可能性でした。参加者たちの率直な声から見えてきた「共創の根源」とは一体何だったのでしょうか。
いよいよ対話を始める前に、司会進行を務めるフューチャーセッションズの富田が、今日の目的、グランドルールについて説明を行います。

また、フューチャーセッションズの筧からは本日対話に用いる「ワールドカフェ」という手法について「ワールドカフェは、自由な雑談から学びや気づきを得る対話手法です。少人数のグループで即興的に話し合い、途中でメンバーをシャッフルすることで、多様な意見が広がり、集合知が生まれます」との説明がありました。
【「共創にはどのような力があるだろうか?」—ワールドカフェで見えた共創のリアル】

今回の対話では、参加者たちの率直な本音が多く飛び出したことが印象的でした。特に、とあるテーブルでは、こんな鋭い本音が飛び出しました。
「ここ半年で『共創』という言葉を知ったんですけど、『共創』というと『本音と建前』がある気がするんです。本質に触れずに話か進んでいると感じることが多いです」
この発言をきっかけに、テーブルでは共創の現実について深い対話が展開されました。
「私もまさに同じことを感じることがあります。『共創』と言いながら対話の場をもうけてみんなの声を取り入れて。でも実際のアウトプットには全然対話のプロセスが反映されていないことがある。「共創」という言葉を使うことで『このプロジェクトはみんなの声を聞いてやってますよ』という建前やアリバイをつくっているのではないかと思うことがあります」
「共創」という言葉が社会に浸透する一方で、「聞いただけ」「やっただけ」で終わってしまう共創の実態について話されました。また、共創への参加のハードルの高さを指摘する声もあります。
「私は『共創』って言葉に惹かれるけど、実際どうやればいいのか分からないことが多いですね」
「私は共創に関わって10年ほどですが、『心を開いて話せる場』がまず大事だと思っています」
「そうですね。お互いに心を開いて話して、自分でも気づかなかったことに気づけた経験があります。それこそが共創の力のひとつだと思います」
「共創」は一過性のワードではなく、本音で対話し、多様な視点や偶然の出会いから新たな気づきや価値を生み出すプロセス。言葉が広がる中で体裁だけの「共創」もある中、心を開き本質に向き合うことが重要だと語られました。仕組みや制度ではなく、人と人とをつなぐ「仕掛け」としての共創が、未来を切り拓く鍵であるという認識が共有されました。

【共創をはばむ壁を突破するには?】
ワールドカフェでの対話が進む中で、共創をはばむ「壁」についても明らかになりました。

例えば、異質な存在への対応についての議論です。ある参加者はこう問いかけました。
「私は対話の場で『異質な人』同士が出会った時、なかなかお互いのバイアスが壊せない場面を経験していて。例えば会社のプロジェクトの中に、社外の考えが違う人が入ってくると、ちょっと排除しようというような雰囲気がどうしても生まれてしまうのかなと感じていて」
この発言に対し、別の参加者からは共創におけるグランドルールの重要性が指摘されました。
「共創って、自分のバイアスから抜け出して違和感を楽しむこと。共鳴し合うには、相手を受け入れる姿勢が大事ですよね。そのためには『余白』や『余裕』が必要なのですが、どうしたらいいのか悩みます」
「そうですね。『共創』と言っても、意見を集めるだけで終わるケースが多い。多様性を受け入れ、さらにアウトプットにつながらないと意味がないですよね」
「うちのテーブルでも同じ話が出ました。単に対話して終わりでは『共創』とは言えないのかな、実行までいかないと」
「だからこそまずは『違和感を楽しむ』ためのグランドルールが必要。仲良しごっこではなく、ちゃんと話を聞くマインドも重要ですね。あとは対話を広げていくだけではなく、対話をコントロールする『ファシリテーション』もやはり必要だと思います」
「ビジネスだけじゃなくて、国連のような国際会議も共創の一種ですよね。バックグラウンドが違う人が集う中でのファシリテーションはどのように行われているのか、参考になるものがありそうですね」
一方で、「共創の力」は万能なのだろうか?という根本的な問いも飛び出しました。
「確かに。でも、そもそも共創って万能?社会課題には難しい面もある気がします」
「アイデアを広げるには有効だと思いますが、対話が広がりすぎて着地点を見失ってしまうことがあります。その力を引き出すにはやはりファシリテーション力も必要だと思います」
共創には違和感・多様性・対話・余白・実行力といった多面的な要素が必要であり、単なる言葉以上の深さが求められていることが語られました。

【アイデアは心を開いた雑談から生まれる。スウェーデン流FIKAタイム】
対話の合間に、長めのブレイクタイム。2025年5月、スウェーデンへ視察ツアーに参加したフューチャーセッションズの筧、上井、富田が、スウェーデンでの学びについてシェアしました。

スウェーデンのFIKA(フィーカ)文化にならい、コーヒーやお茶を飲みながらゆったりと会話を楽しみました。スウェーデンでは単なる休憩ではなく、「人とのつながり」や「心の余白」を大切にする時間として、職場や家庭で日常的に行われています。
会場にはスウェーデンのお菓子なども用意され、リラックスしながら雑談を楽しみました
雑談も歓迎され、アイデアの種や信頼関係が生まれる時間とも言われており、休憩時間を通しても対話の力を感じることができました。
【共創の力を最大化するために必要なものとは?】
多くの人が参加する中、「あなたはどう思う?」と積極的に対話を促す参加者の姿もあった
では、共創の力を最大化するために何が必要なのでしょうか。あるテーブルでは、共創の力が発揮されず、むしろ分断を生んでいる場面について対話がなされました。
「先ほどのテーブルでは介護の現場の話が出たのですが、現場の人は本当に一生懸命。でも、大きな仕組みを変えるのは簡単でないと感じました」
「そうですね。本音では『こうしたい』と思って共創に取り組んでも、実際は建前ばかりだったり、成果も見えにくいこともありますよね」
「それを防ぐには、やっぱりグランドルールとファシリテーターが必要だと思います。対話を深めたり、出た意見を整理する存在も必要なのではないでしょうか」
「私は、⾃然に⾏われてる会話とかコミュニケーションもすでに『共創』のプロセスだと考えていて。共創とは特別なものじゃなくて、自然な対話の中にあるものなんじゃないかと思います」
「たしかに、共創という言葉に期待しすぎてる気がします。共創が本当にうまくいってるとき、むしろ『共創』って言葉すら使わない気がしますね」
「私は、対話の場に参加して『発言しづらいな』と感じることも多々あります。このような場で話し慣れていないせいもあるのですが」
「共創は分断を⽣む⼒もあると思うんですよ。⾃分が関わったことのあるプロジェクトでは、一部が「共創します!」と盛り上がっていると、それ以外の⼈は⼊りにくい、関係ないって思ってしまうようで。それは本当に『共創』といえるのかな?と疑問です。やはり、あらゆる人を受け入れてこそ共創といえるのではないでしょうか」
この問いに対して、参加者たちからユニークな答えが次々と生まれました。
「話していて、対話の場に『ギャル』を連れてくるのはどうかと思ったんです(笑)。言い換えると、「共創」について経験や知識もないピュアな人たちのこと。何か大きな課題について対話する時、めちゃくちゃ問題意識を持って身構えてる人たちだけでは新たな発想は生まれにくい。それに対して予想もしない答えが返ってくるような人もいた方が、対話にグラデーションができて、絶対にいいと思うんです」
「ギャル」とは、専門知識やバイアスにとらわれない純粋な問いかけの象徴。別の参加者も同様の視点を示します。
「確かに専門家だけだと話が同じ方向に偏りますよね。だから0と100、両極の人がいた方がいいって話、共感します」
「面白いですね!対話の場における多様性を実現するには、聞く側の姿勢というか態度もないといけないですね。『この人に聞いたところで何も⽣まれない』って思った瞬間に、本当に全部を無駄にしてしまう」
一方で、AIの活用についても議論が交わされました。
「対話の内容を平等にジャッジする存在も必要だと思うんです。そこにはAIも活用できるかも。意見をフラットに整理してくれて、誘導もせずにまとめてくれる存在として」
「やはり最終的には、『誰と共創するか』が一番大事かと現時点で思います。設計された場と、偶然の出会い、その両方から真の共創が生まれるのでは」
「意識高い人だけではなくて、全く興味のなさそうな人が入ることで、思いがけない発見がある。それが本当の“共創の力”かもしれないですね」
AIによるフラットな判断への期待も示されましたが、同時に人間同士の対話の価値も再確認されました。

【新たな視点:「自己内共創」という発見】

今回の共創総会で生まれた興味深い概念の一つが、「自己内共創」でした。ある参加者がこう語ります。
「今日の対話の中で出た『自己内共創』という言葉がとても面白いなと思いました。自分の中に多様な価値観を常に磨いて常に問いに対する考えを模索し続けること。そうすれば自分と違う価値観の人と出会っても柔軟に受け入れられる。共創の根源である『自分』を見つめ直すことが大事なのかなと。自己内共創ができていると、共創の力も最大限にできるのではと思いました」
この視点は、ほかの参加者の共感を呼びました。複数の仕事や経験を持つことで、自分の中の異なる視点が対話を始める。それが外部との共創の前提になるという考え方です。
「多業ということも『自己内共創』に繋がるのではないかと思います。今は一人で複数の肩書きを持ち、さまざまなビジネスに関わることも一般的な時代。その活動が自分を豊かにし、さらには共創の場を豊かにしてくれるのではないかと思います」
また、「違和感を楽しむ」という姿勢の重要性も語られました。
「対話の中で『あれ?』と違和を感じることって大事なのかなと思います。それを純粋に楽しみ、疑問に思えばそこに質問したり。そうすると「へえ〜!」という気づきが多く出てくる。自分にない新しいインプットになるし、インプットがないと良いアウトプットもでないですよね」
「色々な⼈と対話することが重要だと私も思いました。共創総会に参加して、たくさんの気づきや学びがありました。完璧なアウトプットがなくても、今日の対話の意味はあるのではないかと感じています」
【新たな視点:「自己内共創」という発見】
ワールドカフェの最後に行われたハーベスト(収穫)の時間では、各テーブルから「今日一番共有したいこと」が発表されました。そこには、共創に対する新たな視点が数多く含まれていました。

「まとまっていない」ことこそ重要
「『まとまっていない』ことこそ重要。バラバラであることがGOODであるということ。目的を絞りすぎると共創の行為そのものが苦しくなってしまう」
無理に一つにまとまろうとするのではなく、多様性やばらつきそのものに価値があるという気づきは多くのテーブルで挙がっていました。
共創=漢方薬論
「共創=劇薬ではなく、漢方薬。すぐに結果は出ないけれどじわじわと効果が広がっていくもの。そこで大事になるのはすぐの成果を求めず、変化を見守る『辛抱する力』」
即効性を求めがちな現代において、「漢方薬」という比喩が印象的でした。共創の価値は短期的な成果ではなく、長期的な変化や影響にあるという視点が示されました。
お笑いコンビ論
「共創とは、『お笑いコンビをつくること』。この人とだったら面白いことができそう!というワクワク、オープンマインドが大事。お互いのリスペクトも大事。また、ボケとツッコミのようにそれぞれの役割があると良い」
ユーモアたっぷりのアイデアも共有されました。共創における化学反応や相互補完の関係を、身近なお笑いコンビに例えることで、共創の本質が見えてきます。
共創の3つの要素
複数のテーブルから、共創に大切な要素として以下が挙げられました。
①共創しやすくなるための仕掛け。例えば、掃除をいっしょにしたり、キャンプをするなど、同じ行動を通して共創がしやすくなる。
②ノイズを許すこと。無駄をよしとすること。
③1回でケリをつけようとしないこと。長期的な視野をもつこと
また、別のテーブルからは
①『誰と一緒に共創するか』プロばかりでなく、多様性が大切
②ゴールを求めがちだが、ここで色々な学びや気づきがあった時点で共創は成功していると思うこと。
③答えをすぐ求めるのではなく、問い続けることが大切
という3点も示されました。
これらの発表を通じて、共創に対する多面的で豊かな理解が会場全体で共有されました。

【一人ひとりが考える、共創の力を最大化するためにやってみたいこと】
共創総会の終盤、参加者それぞれが「共創の力を最大化するために自分ごとでやってみたいこと」を名札の裏へ記入しました。そこには、この日の対話を通じて得た様々な気づきが綴られていました。
「『自力をつける』。対話する時には、データを示しながら話すと周囲にも説得力があり伝わりやすいと感じた。周りにも伝わりやすい話をできるよう自分の力をつけていきたい」
「『自分も話し、相手にもたくさん話してもらう』。対話には自己開示が必要だと感じると同時に、相手が話しやすいような雰囲気や相槌も大切だと実感した」
「『自分の価値観を広げるために、多様な人とつながる』」
「『敢えて無駄の多い自分・時間・場』を大切にする。余裕や余白があるからこそ共創が生まれるのだと思う」

【共創をみんなのものにし、力を最大化する「共創態度」とは】
セッションの終わりに、代表の有福から「共創態度」について話がありました。これは、これまで実施してきた共創総会やフューチャーセッションの対話を通して、フューチャーセッションズが新たに提示する概念です。

有福)「今日一日を通して、参加者一人ひとりのエネルギーを肌で感じ、それが自身の力にもなると感じました。新しい共創の成功例が生まれる可能性を感じています」
有福は、フューチャーセッションズにおける長年の共創プロジェクトの経験から、共創を広げていくのに必要なのはスキルやマインドだけではなく、共創に向き合う「態度」だと気づいたと語ります。
有福)「共創のスキルやマインドばかりを重視すると、共創が特別な人のものになってしまうという危機感を持っています。共創は、誰もが振る舞いによって実現できるものだと考えています。そこで考えたのが以下の5つの『共創態度』です」
共創態度~社内外分け隔てなく、共創を起こしやすくするための行動・振る舞い
①未来に心地よくいられるような発想をしよう
過去の延長線上ではなく、みんなが心地よく感じられる未来を描く発想を大切にします。
②積極的に情報・知識を共有しよう
自分だけが知っている情報や知識を出し惜しみせず、オープンに共有することで、新たなアイデアの土壌を作ります。
③みんなが参画できるように配慮しよう
声の大きい人だけが発言するのではなく、様々な立場の人が参画できる雰囲気づくりを心がけます。
④役割を超えて臨機応変に相互支援しよう
「これは私の仕事ではない」という境界を越えて、必要に応じて互いを支援し合います。
⑤新鮮な気持ちで問い続け試行錯誤しよう
答えを急ぐのではなく、好奇心を持って問い続け、失敗を恐れずに試行錯誤することを大切にします。
この「共創態度」は、特別なスキルや知識を必要としない、誰もが実践できる振る舞いとして設計されています。本日の対話の中でも「誰もが話しやすい場づくりが必要」「多様性を受け入れられる自分のあり方」など、共創態度についての対話が広がりました。「共創は自分のあり方によって実現できる」という気づきもあり、共創が広がる重要な一歩となった共創総会でした。

対話の後は、懇親会を開催。多くの方が参加し、包装容器の使用やゴミを極力抑えた形で提供される見た目も美しいフードとともに対話を楽しんだ
「共創とは何か?答えはなかなか出ず、難しかったです。『今日はそう』いう場。『今日はそう』それが共創(きょうそう)なのでは?というのはダジャレチックで面白かった。大きな答えが出なくても、今日その場で何か感じ取ったものがあれば『共創』といえるのかなと」
この「今日はそう=共創」という言葉遊びには、深い洞察が込められています。共創とは、必ずしも明確な成果物を生み出すことではなく、「今日、そう感じた」「今日、そう気づいた」という、その場での気づきや感情の共有そのものなのかもしれません。
別の参加者からは、こんな気づきも共有されました。
「フューチャーセッションズのメンバーに誘われ、初めて参加しました。共創の力を最大限にするためには『問い続ける』ことが大事だということが自分の心にささった。今ある社会課題などは答えが決まっていないからこそ、自分の感性を研ぎ澄ませ、問い続けた結果、自然発生的にどう行動していくべきかが見えていくのかなと思いました」

【これからの共創に向けて】
6時間にわたる対話を通じて見えてきたのは、共創の複雑さと可能性でした。表面的な「共創」の広がりの背景で起きている課題を正直に見つめる一方で、それを乗り越える新たな視点や手法も数多く生まれました。
「ギャル」が象徴する純粋な問いかけの力、「FIKA」に代表される余白の重要性、「自己内共創」という新たな概念、そして誰もが実践できる「共創態度」について語られました。
また、参加者たちが共創の「答え」を求めず、その「プロセス」や「あり方」そのものを楽しんでいる様子も見受けられました。その場で感じ、気づき、共有することそのものに共創の価値を見出す参加者もいました。
次回の共創総会は、2025年12月の開催を予定しています。今回浮かび上がった課題や可能性を踏まえ、さらに深い対話と新たな発見が生まれることに期待しています。
共創の根源とは、人と人が真剣に向き合い、違いを楽しみながら、未来への可能性を一緒に探ることなのかもしれません。その第一歩は、今日、あなたの目の前にいる人との対話から始まります。共創総会でそれぞれの参加者が持ち帰った気づきや学びが、新たな共創の種となり、その輪が広がっていくことを楽しみにしています。
