プロジェクト事例 PROJECTS
日産化学「未来創造企業 インターンシップ」

「未来創造企業」実現へ向けて、文理融合のインターンシップをスタート

概要

プロジェクト期間
2021年7月~12月
課題・背景
未来創造を体現する人材とは?
支援内容
インターンシッププログラムのセッション設計・運営
体制

プロデューサー・ファシリテーター:最上 元樹(フューチャーセッションズ)

日産化学株式会社は、化学品事業、機能性材料事業、農業化学品事業、ヘルスケア事業といった多様な事業を展開する化学メーカーです。135年の長きに渡り、研究開発に力を入れ、価値創造企業として新たな製品・サービスの創出に挑み続けてきました。
現在、日産化学は「未来創造企業」をコンセプトに打ち出し、未来に向けた創造的な事業活動を推進する方針を示しています。このコンセプトの一端を学生の皆様にも体感してもらうべく、文理それぞれの学生を融合して未来について考える3日間のインターンシップを開催しました。その背景や実施内容、今後に向けた展望について、人事部の稲葉正光さん、吉野治仁さん、山本佳奈さんに話を聞きました。

人事部 山本 佳奈さん:
化学品事業の現場で事業損益や顧客情報の管理を経験した後、人事部へ。現在の担当は、インターンシップや新卒採用の他、社内のコミュニケーションを活性化する仕組みづくりを推進中。

人事部 吉野 治仁さん:
農業化学品事業部でロジスティクスや損益管理を経験した後、人事部へ異動。新卒・キャリア採用、育成の他、新たな人事制度の構築などに携わっている。

人事部 稲葉 正光さん:
入社後10年に渡って新規除草剤の創製研究に従事した経験を持つ研究開発職出身の人事。現在は、新卒・キャリア採用、イントラプレナー育成を目的とするプログラムの企画・運営などを担当する。

ストーリー

「未来創造企業」を目指す日産化学

―― 日産化学の新たな経営コンセプトを教えてください。

稲葉)日産化学では、「未来創造企業」を新たな経営のコンセプトとしています。企業理念に「社会が求める価値を提供し、地球環境の保護、人類の生存と発展に貢献する」を掲げ、「未来のための、はじめてをつくる。」をコーポレートスローガンとしています。

吉野)日産化学は社会の時流に合わせて変容を遂げてきた会社です。渋沢栄一の働きかけで創られた会社で、創業当初はこれまで日本になかった化学肥料を作り、日本の農業の発展を目指しました。その後はディスプレイ・半導体材料などの電子材料や医農薬、医療材料といったライフサイエンス関連へと事業領域を転換してきました。
現在は、カーボンニュートラルなどの環境に配慮した製品や、5G・6Gを見据えた通信系の材料などの開発にも着手しています。時代と共に変化し、そして10年、20年、あるいは30年後の未来を作っていくような事業を行っていこうとしています。

―― 人事部はどのような役割を担っていますか。

山本)採用部門と人材開発部門に分かれている企業が多いと思いますが、私たちは採用から育成まで一貫して行っているという特徴があります。例えば、インターンシップであれば、若手の社員に触れながら、改めてどのような人材を採用すべきかを検討し、企画、実行にまで移すことができる。一気通貫している強みは大きいと感じています。

文理融合のインターンシップ企画立案の背景

―― 新たなインターンシップを企画した背景を教えてください。

吉野)経営コンセプトが「未来創造企業」となったものの、社内の様子がガラリと変わるということはありませんでした。現場の社員の中で、「未来創造」の意義づけも明確にはなっていなかったんです。そのため、インターンシップは「当社の魅力を伝えること」と同時に、「未来創造へ関心のある学生たちに集まってもらい、一緒に模索していくような機会」にしたいと思いました。

稲葉)「未来創造」を実現するには、当然のことながらそれを体現できるような人材を採用していかなければいけません。従来の研究職の採用は、技術に関する面接の比重が大きく、専門性や研究発表の内容とそれに関するディスカッションに重きが置かれています。未来創造に求められる人材要件として、それらの点も重なるとは思いますが、これまでの社員と「未来創造型」の社員とでは少しタイプが違うかもしれない、これまでとは違う物差しが必要なのではないか、という仮説を持つようになりました。そこで、この仮説を検証するために、その施策を実施しながら未来創造企業に求められている人材の採用イメージを持てるように、インターンシップという手段を検討したのです。

 

―― インターンシップに「未来創造」を体現するような学生たちに来てもらうために、社内でどのようなことを講じていましたか。

吉野)1年間弱かけて、「あの人は『未来創造型の人材』ではないか」という社員へヒアリングをしていきました。その結果、研究職では、「好奇心に突き動かされること」や、「興味を持ち挑戦し続けていること」といった共通の姿勢・マインドを持っていることが見えてきました。

山本)事務系職の「未来創造型人材」へヒアリングを続けた結果としては、チームと関わり合いながら仕事をしていくシーンが多いからか、「貢献意欲の高さ」という共通ポイントが見えてきました。
時代ごとの学生の変化もあり、採用の難易度が上がる中で、加えて「未来創造型人材」という新しい人材要件が入り、どうしたら採用ができるのか手探りの状態でした。ヒアリングで見えた共通の素養を、インターンシップに参加する学生の選考に活かしたいと考えました。

―― 具体的にどういった点でインターンシップ参加者を選んだのでしょうか。

稲葉)インターンシップの応募には、研究職が約500人、事務系職が約200人と、全体で700人を超える応募がありました。正直、想定の2倍以上でした。
その中からどう選考するかは非常に難しい問題だったのですが、研究職では、インターンシップのエントリーシートに「チャレンジした経験を教えてください」という項目を設けていて、その回答を他よりも少し重視しました。例えば、大きな変化を自ら起こしにいった経験がある人や、自分の好奇心や願望を抑えきれずに行動を起こした人などを選びました。背景には、未来を構想して変化を主導していけるだけの強い想いを持てる人を選抜したいという思いがありました。

吉野)事務系職では、社員へのヒアリングの結果、貢献意欲が「未来創造型」の人材の鍵だと仮説が立っていたので、「誰かのために一生懸命邁進したことがあるか」という経験を確認したのです。
中でも、自分のポリシーを感じさせてくれる人を選びました。「私はこういったことを大切に思っているので、こういう行動を取り、結果的にこうなりました」という、一本筋が通っている人がよいと思ったのです。未来創造をする際には、将来にくさびを打って、そこからバックキャストするような思考が必要です。そのベースとなるような自身の価値観をきちんと持っていて、主体的に動ける人であることを大事にしました。

文理学生が共に未来を創造するインターンシップ

―― どのようなインターンシップを実施したのでしょうか。

吉野)社内で2050年の未来を考えるプロジェクトがあり、そこに私も参画していました。メンバーは7人で、事務系の社員は私一人でした。研究職の社員は、日々現象を観察したり、仮説検証を繰り返しながら新しいソリューションを提案しているので、細かく具体的に課題を解決するにはどういった技術が必要か考えるのが得意だと感じました。それに対して、私は未来の全体的な方向性やコンセプトに関心がありました。「未来創造」といった時には、目指す社会のコンセプトがあって、それに対してソリューションをどう開発していくかという思考が必要だと思ったからです。つまり、未来を構想するには、研究職と事務系職の両者の考え方や力が混ざることが必要だと感じました。そこで、インターンシップも理系学生と文系学生を混ぜてワークショップを実施しようと考えました。

―― インターンシップに参加するにあたり、学生はどのような課題に取り組みましたか。

稲葉)日産化学の事業領域とSDGsの関連性を加味しながら、食文化、暮らし、生活習慣病など5つのテーマを事前に設定しました。1日目の開催までに、5つのテーマそれぞれで、今の社会で起きている変化の潮流を拾うこと、そして全員が提出した潮流について重要かそうでないかを振り分けるという作業をしてきてもらいました。

――  宿題でテーマへの関心を高めた上で、インターンシップに臨んだのですね。プログラム内容を教えてください。

吉野)1日目は、変化の潮流を調べてきてもらった上で、変化の潮流の先に「どんな新たな社会課題が起こりうるのか」についてグループで対話をして内容を深めました。
未来を洞察する対話の場合、「技術進化の延長となる理想論」や「抽象的な社会課題論」になりやすいですが、「未来が今とどんなところが違うのか」や「どんな起こりうる矛盾が生まれそうか」を問いかけることで、文理双方がそれぞれの視点から意見を出してくれました。
2日目の事前課題は、自分の興味関心について可視化する「偏愛マップ」を記入するワークを行いました。
未来創造の基盤には、「自分はこんな世界が見たい」という価値観があると思います。「正解のない未来の中で、自分はこれが正解だと思う」、あるいは「○○が好きだからそれを突き詰めたい」といったことが、創造の動機となってくるはず。こうした価値観を掘り起こすには、自分のことを知る機会が欠かせないと考えました。
そのため、自身の偏愛マップをシェアして、一緒に取り組めそうな学生たちでグループとなり、「個人の強みと、一緒になったチームメンバーの強み、日産化学の強みをかけ合わせて、未来に向けてどんなことができるだろうか」について対話しました。

山本)3日目には、日産化学が持っている技術・強みと、参加者の学生が持っている技術・強み、そして必要があれば共創パートナーの力を掛け合わせて、どのようなことができるかを具体化していきました。
アイデアの源泉として、研究分野の強みを挙げる学生も多かったのですが、あるグループでは全員が「海好き」ということがわかり、そこを強みとして挙げていました。こうした強みが出てくるのは、「偏愛マップ」を書いて、シェアしたからこそでしょう。

――  インターンシップ最終日はどのようなことをしましたか。

吉野)特定の社会課題を達成できた未来を、グループで3分の寸劇で表現しました。

稲葉)プレゼンテーションだけでは一般的で抽象的な内容に終始してしまいがちです。寸劇にすることで、圧倒的にリアリティを持った一つの「画」に落とし込めるメリットがあると感じました。また、学生たち本人にとっても忘れられない体験になると思います。

―― プログラムを進める上でどのようなことを工夫しましたか。

稲葉)文理の学生同士で話をさせ、どうシナジーを生んでいくかは工夫した点です。理系の学生の場合にはどうしても技術の部分だけで議論してしまいがちです。未来をストーリーで捉えて、その中に研究開発の役割をどう落とし込んでいくかを考えてほしかったので、その点は、文系学生がよい役割を果たしていたと感じました。

吉野)最初の段階では理系学生の専門的な話に、文系学生たちが圧倒されているような印象を受けました。その状況を見て、「自分ならではの視点で疑問を投げかければよいんだよ」と伝えたところ、2日目以降は堂々と話題を振れるようになったと感じます。
最後の振り返りでは、「文系の学生の意見が新鮮だった」「文理の学生がいたことで、互いが共通認識を持つためにはどう伝えたらいいかを考える機会になった」といったコメントが寄せられました。また、文系の学生からは「すごく難しかったけれど、その中で自分が求められる役割とは何かを考え、実行できるようになった」といった声が挙がりました。

山本)インターンシップには、先輩社員として研究職と事務系社員にも参加してもらいました。事前に、「おもしろいね」「たしかに、こんな未来がくるといいよね」といったポジティブな声かけをするようお願いしていました。こうした目線合わせもあって、学生たちも意欲的に自身の関心を掘り下げていける雰囲気ができたと思っています。

「未来創造」についての思いを社内で育む機会を

―― インターンシップの成果と今後の展望を教えてください

稲葉)インターンシップで議論を推進していた学生が、日産化学に入社したいと希望してくれました。未来創造型の人材ということで集まってくれた学生たちですし、実際に周囲を巻き込んで主体的に行動する様も目の当たりにしているので、これからの活躍に期待しています。

山本)インターンシップは、「未来創造とは何か」を考える第一歩となりました。今回は学生たちで実施しましたが、今後は社員が集まってこうした対話を重ねていきたいと感じています。土台となる研究領域や各職種の仕事の専門性を持って、文理融合で未来を語り合うことで、よりおもしろい場になっていくことでしょう。若手の有志を募って、ぜひ実現したいです。

吉野)目の前の業務に打ち込むことと、未来を創造することにはひらきがあります。そのため、社内で「未来創造」をどう捉えていくか、どんな行動に移していくかについては、まだまだこれから議論が必要だと考えています。「未来を考えることがワクワクする」「未来に向けて働いていくことに幸せを感じる」といった社員の心をいかに醸成していくか。これからはそんなテーマに挑んでいきたいと思っています。

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