プロジェクト事例 PROJECTS
Future Sessions × GLOCOM

「組織や地域の文化を自分たちで創造する、文化変容装置の可能性」オンライン対話イベント

概要

プロジェクト期間
2023年3月8日(水)15:00~16:30
課題・背景
対話と共創によって、組織や地域の文化を創造するには?
支援内容
対話イベント企画・ファシリテーション
体制

プロデューサー:筧 大日朗(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:上井 雄太(フューチャーセッションズ)
ディレクター:坂本 悠樹(フューチャーセッションズ)

ストーリー

【組織や地域の文化を創る“文化変容装置”】

フューチャーセッションズ(以下、FSS)では、2012年から、企業、行政、市民セクターを横断した対話の場づくりを進めてきました。
その中で課題として感じてきたことに、「どうしたら、企業や組織、地域が継続的に活動を起こし続けていくようになるのだろうか」ということがあります。
企業や地域で生まれた活動が、一過性の取り組みに終わるのではなく、持続して根付いていくためには、既存の文化が変化することが必要です。
そこで、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(以下、GLOCOM)と共同で、文化変容をテーマにした「企業の文化変容プログラム」を開発しました。

今回のオンラインイベントでは、対話と共創による「文化変容装置」の紹介と、実際に取り組みを進めている3つのプロジェクトの事例を、ゲストを交えてご紹介し、その可能性を探究しました。

【文化変容装置とは?

はじめにインプットとして、GLOCOMの菊地さんから、今日のテーマである文化変容装置についてお話しいただきました。
菊地さんの専門は社会学で、「文化がどのように生まれ育つか」について研究しています。特に、YouTuberと地域活性化についてなど、都市やネット上で見られる文化現象が専門です。

菊地さん:
もともとは、博士論文で、文化を生み出すためのメカニズムとしての文化装置論をテーマにしていました。その後、GLOCOMに着任し、既存の文化をどのように変えていくのか、という文化の変容に内容を発展させたのが「文化変容装置」の議論となります。

まず、文化に注目してみます。社会学での文化という語の定義は様々ですが、その1つに「人々の信念、価値観、規範、慣習」のことを文化とする、というものがあります。
組織や地域によって、そこにいる人たちに共有されている文化は異なります。例えば、同じ企業でも部署によって、人々の考え方が保守的か革新的かという違いがあったり、都道府県ごとにお酒の締めに何を食べるかが異なるのも文化の違いと言えるでしょう。

では、なぜ組織や地域によって文化が違うのでしょうか。それは、人々のネットワークが異なるからです。すべての人がつながっているわけではなく、人のつながりには偏りがあります。その特定のつながりの中から、それまでとは違った文化が局所的に生まれてくるのです。
社会学ではこの局所的な文化のことを「サブカルチャー」と呼んでいます。

ここからが、今日の本題です。
では、文化を意図的に生み出したり、変化させたりすることは可能でしょうか。
特定のつながりの中から文化が生まれるのであれば、人々の新しいつながりをつくってあげればよいわけですが、それは思った以上に難しいものです。だから、新たな人々のつながりをつくるための仕組みを用意してあげる必要があります。これを文化変容装置と呼んでいます。

文化変容装置としてうまく機能するためには、次の3つの条件が必要となります。
①手段・情報の提供(人々を同じ場所に集める)
②ネットワークの形成・維持(新しい出会いを生み、関係を維持する)
③アイデンティティの埋め込み(自らのアイデンティティを感じれば、何度も訪れるようになる)
この3つの条件を兼ね備えた文化変容装置を組織や地域に用意すれば、そこから波及的に新たな文化が組織・地域内に広がっていくことが期待できます。

また、文化変容装置には、拠点型・コミュニティ型・メディア型の3つの形態があります。

今日紹介する3つの事例は、文化変容装置がうまく機能するための条件を兼ね備えているので、ぜひ組織や地域で展開する際のヒントを得てください。

【事例その1:「AGCが取り組む “YTC WAY活動”(組織文化醸成活動)」

最初の事例紹介は、AGC株式会社デジタル・イノベーション推進部の磯村さんです。AGCの組織文化醸成活動であるYTC WAY活動について、その背景や取り組みの様子をお話しいただきました。

磯村さん:
AGCでは、AGC横浜テクニカルセンター(YTC)という新拠点に組織が統合するのに伴い、組織文化醸成活動(YTC WAY活動)を行ってきました。
背景としては、2020~21年に羽沢(研究所)と京浜(工場)が統合するのに際し、社内外のオープンイノベーションを促し、開発の速度と確度を上げる、ということがありました。
新しいセンター長が、「AGCの価値創造をリードする拠点となるための組織文化を作りたい」と発言し、この組織文化をYTC WAYと名付けました。
ありたい姿は、“価値創造拠点横浜”となること。他部署や社外への興味・関心を持ち、新しいことへ自ら挑戦し発信していくことが当たり前のようにできるような拠点になりたい、という思いが込められていて、数年かけて徐々に浸透していきました。

そんな時に、FSSに相談して最初に立ち上げた活動が“YTC WAY風土活動”です。有志31名で新しい拠点の文化をつくっていこうという志のもと、変革の先駆けとなるような2つの活動を開始しました。

「YTC WAY 風」と「YTC WAY 土」で合わせて風土。土で事例を作り、風によって意味づけをしていく、という相互作用によって文化が生まれることを目指したものです。

実際には、羽沢と京浜の元拠点長が対談し、集まった有志がオンラインやリアルで対話を行いました。ここで重要だったことは、異なる両拠点の文化を言語化して表し、解きほぐし、新しい文化に編みなおす対話だったということです。
そこから、私たちが作りたいカルチャーとは「人の繋がりの促進」と「ものづくりの革新」であること、その相乗効果によって価値を生み出していこうという話をしました。
結果的には、YTCの新しい組織文化というのは、「一人ひとりのもやもやを大事にする」、「一人で悩まない・悩ませない」、「型を破って革新的なものをつくる」のように言語化されました。

言語化されただけでなく、具体的な風土活動として行われたことが、まさに文化変容装置と言えます。メンバーの想いや創造性が結晶化した企画として、例えば「宝島」では、人、モノ、技術を知り、交流する、生むことが自然に循環する場をつくったり、「YTCロールプレイゲーム」では、人生ゲームのようなボードゲームで、他部署の疑似体験や苦労話を楽しく学ぶといったことを行いました。
風土活動以降には、総務主導の公式活動も加わり、新たな文化変容装置も含めて進化を続けています。

最後に、文化変容装置的視点で会社を見てみます。今回、異なるカルチャーを持つ羽沢と京浜が一緒になりました。羽沢らしさ、京浜らしさを解きほぐし、そこから新しいらしさを持った活動が生まれて相互作用している、その全体をYTC WAYと言うのだろうなと思います。
AGCにはYTC以外にもたくさんの拠点があり、それぞれにカルチャーがあります。そのカルチャーがまた相互作用していく。その相互作用している全体をもって、AGCの企業カルチャーと言えるのではないか、と感じています。

【事例その2:「山口市×レノファ山口が取り組む “湯田温泉PARK共創プロジェクト”」

次に、文化変容装置のまちづくり版である、山口市とレノファ山口が取り組む湯田温泉PARK共創プロジェクトについて、山口市交流創造部湯田温泉パーク整備推進室の田中さん、レノファ山口運営部長の内山さん、FSSの上井がお話ししました。

上井:
Jリーグでは、「Jリーグを使おう、社会のために。」というキャッチフレーズのもと、Jリーグの持つ資産を活かして地域を良くしよう、という地域密着型の取り組みを行っています。このプロジェクトはその山口版です。

2024年に山口市に湯田温泉PARKという施設ができます。コンセプトは、「あそびば、まなびば、たまりば」。大屋根広場があって雨の日でもイベントができ、試合の時にはパブリックビューイングとして地域の拠点にもなる施設です。レノファ山口がPARKのハブとなり、民間、地域、大学などのステークホルダーを招き入れる役割を果たします。この施設をどのような場にしていきたいか、ということを共創してきました。

2022年6月に行われたキックオフセッションでは、ありたい未来についてアイデアを出し、8月にはビジョンセッションとして、この施設ができるとまちがどう変わるのか、まちの未来について対話を行いました。

対話から生まれた実験アイデアは、次の4つです。
1.「湯田中学校パブリックビューイング」企画
2.「湯田温泉コーヒー牛乳専門店」企画
3.「レノファ山口 足湯シート」企画
4.「白狐祭りwith Z世代」企画

「湯田中学校パブリックビューイング」企画は、なんと湯田中学校サッカー部の1年生が企画したもの。レノファ山口のアウェイ試合を湯田中学校の体育館を貸し切り、パブリックビューイングをやりたい!というアイデアです。100名近くの地域の多様な世代の人を集めて、湯田温泉のことやレノファ山口のことを知るクイズを作るなどして進めています。NECがプロジェクター機器を、富士商ホールディングスがEVによる再エネ電力源を提供してくれるなど、企業も招き入れています。

「湯田温泉コーヒー牛乳専門店」企画は、山口大学経済学部の大学生2人が企画しました。温泉と言えばコーヒー牛乳でしょ!ということで、温泉名物を作ろうというところからスタートしています。意外にも、これまでコーヒー牛乳の専門店というものはなく、日本初のコーヒー牛乳専門店を湯田温泉から発信したいという思いもあります。
ニシダコーヒー、秋川牧園、ときつ養蜂場などの山口の企業と連携して形になってきていて、温泉組合の会議でプレゼンをしたり、地域の人たちからのコメントをもらいながら進めています。今後、スタジアムや地域の祭りで販売することを目指しています。

内山さん:
レノファ山口はJ2の地方クラブです。サッカーだけでは地域に愛されるというのは難しく、地域の課題や企業の課題を解決する中で必要とされる存在にならないといけないと考えていました。文化変容装置そのものになるのは難しいけれど、きっかけ作りには貢献できると思っています。そうした役割を地域で発揮し続けて、地域に必要とされる存在になっていきたいです。

田中さん:
湯田温泉近くに山口大学があります。周りに何もなく、大学生が遊びに行くところがないのが課題のひとつです。山口市もこれまで大学生を招き入れた施策ができていませんでした。若い力を使いながら湯田温泉、山口の文化を変えていく取り組みを湯田温泉PARKでやっていきたいと考えています。

【事例その3:「流通経済大学が取り組む “ダイバーシティ共創センタープロジェクト”」

最後に、流通経済大学のダイバーシティ共創センタープロジェクトについて、流通経済大学ダイバーシティ共創センター センター長の三木さん、社会学部国際観光学科3年の蛭田さん、FSSの坂本がお話ししました。

三木さん:
2022年4月にできたダイバーシティ共創センターは、「ダイバーシティ共創ポリシー」を宣言しています。その中で、多様性を持つ一人一人が、伸び伸びとその個性と能力を発揮でき、誰一人取り残さないキャンパスを共に創るために、センターをつくる、と言っています。
しかし、当初、「多様性を持つ一人一人」とは、一般的でない特色を持ったマイノリティの学生のこと、「誰一人取り残さない」と言っても取り残されているのはマイノリティだけ、と受けとめられていました。
ダイバーシティ共創センターは、「多様性を持つ一人一人」とは、全ての学生のことであり、「誰一人取り残さないキャンパス」は、全ての学生・教員・職員が、自分とみんなで共に創ると考え、それを実践する方法を探ってきました。
FSSから、共創による新価値創造のアドバイスをいただき、セッションやアクションの伴走をしてもらっています。私自身がセンター長ではなく一個人として参加し、自分も取り残されないように多様な人たちと対話することを重視しています。

蛭田さん:
1年前からこのプロジェクトに参加しましたが、初めは、共創ってなに?という疑問からスタートしました。結果的にできた6つの共創アクションのうち、私自身は「サードプレイスカフェ」に参加しました。

コンセプトは、大学のキャンパス内に第3の居場所をつくる、ということ。学校内スペースに近所のベーカリーやコーヒーショップを呼び、たくさんの人が集まって大盛況でした。
一方で、メンバー募集や日程調整など、運営部分を職員に頼っていて学生含めた全員が全力を出せていなかったという反省点もあります。
共創するためには、参加者同士の連携強化と共通認識のすり合わせ、それぞれの責任と目的意識が必要で、参加者同士の横のつながりも必要だということがわかりました。
この経験を踏まえ、一人ひとりの活動と横のつながりを意識して、ライフデザイン共創ラボを企画・開催しました。
この取り組みではイベントの企画段階から学生が入り、当日も学生主体で進行することで、OB・OGからの話を聞きながら、参加者同士の交流が生まれ、学外の方にも来ていただく企画にすることができました。
今後の課題として、もっとラフにコミュニケーションツールを活用し、一緒に企画・準備する学生同士、学生と職員、職員と教員などがつながりやすくすることでネットワークを強め、成果を出していきたいです。

坂本:
このプロジェクトは文化変容装置という考え方を最初から皆で意識しながら進めてきたわけではありませんが、サードプレイスカフェやライフデザイン共創ラボなどのアクションはそれぞれが文化変容に寄与する取り組みであり、プロジェクトを進めていく中で、結果として図らずも文化変容装置としての機能をアップデートしていったように思いました。
共創セッションから生まれたアクションを見てみると、みんなの課題ややりたいことから生まれたものに、コミュニティ型が多いことがわかります。これは、文化変容の観点から必要だったけれども、これまで学校だけで取り組んでもなかなか生まれてこない領域だったと言えるのかもしれません。改めて、ダイバーシティ共創という、多様な参加者と共に創るアプローチは、学校に新たな文化をつくるために有効なアプローチなのではないかと感じています。

そしてつい先日、3月6日に今年度の締めくくりとして感謝交流セッションを実施しました。
これまでの活動をまとめたパネル展示や、留学生とスポーツ系学部の学生とが共同企画した運動会などを実施しました。また、ダイバーシティ共創センターの考えと近しいコンセプトだということで、「注文に時間がかかるカフェ」という活動をされている学外の方とコラボレーションして場を作ったり、これまで参加していなかった新しい関係者を招き入れた共創セッションを行いました。その場の対話の雰囲気や、これまでの成果が形になったことからこの1年間の活動を象徴する場になったのではと思います。
今後、さらに継続・発展させていくことで、ダイバーシティ共創という文化が流通経済大学の新しい文化として、根付いていくのではないかと考えています。

【セッション参加者のコメントから

事例紹介の後は、関心のある事例ごとにブレイクアウトルームに分かれて対話を進めました。対話の後の参加者のコメントを抜粋してご紹介します。

「地域おこしなどは一過性のイベントで終わってしまうケースが多いけれど、終わらずに自走していくものもあります。イベントではなく、補助金が出なくても、自走するようになると文化になっていくのではないでしょうか。ただ、そこが難しいところです。」

「組織活動の場合、どうバランスするかが大事だと思います。肉と骨のような関係で、ゆるい活動としての肉は必要だけれど、それだけだと倒れてしまうので一本の骨が必要。ただ、組織のロジックは骨で成り立っているので、それに寄ってしまうところがあります。「自走させる」という自己矛盾の言葉がそれを表しています。」

(病院に就職する学生からの、イノベーションを起こせないだろうかという質問に対して。)
「対話をグラフィックレコーディングすることによって、人の思いや起こっていることを視覚化し、次のアクションが生まれることを手掛けています。医療関係者と患者の認識のズレに本人たちは気づいていないので、目に見える形にすると、それに気づいて変化を促すきっかけになります。」

「活動を続けていくには自分も楽しくないと続かないと感じています。継続していくにはある程度のゆるさも必要で、やれる時にやって無理せずに続けていくことも必要なのではないでしょうか。」

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組織や地域が継続的に活動を起こし、変化していくための仕組みとしての文化変容装置をテーマにした今回のセッション。これからも、FSSの取組事例をご紹介し、そこから得られる学びを共有していきます。

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