プロジェクト事例 PROJECTS
【ヒューマンルネッサンス研究所×FSS】

Future Timeline Project 第1回を振り返る

概要

プロジェクト期間
2024年10月22日(火) 15:00〜18:00 「#1キックオフ、タイムライン共創セッション」/ 2024年11月13日(水) 15:00〜18:00「#2アクション創出セッション」/ 2024年12月4日(水) 15:00〜18:00「#3プロトタイプセッション」
課題・背景
“社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する”自律社会の実現に向け、「社会も個人も豊かにするお金の健康なあり方」を探究する
支援内容
対話イベント企画・ファシリテーション
体制

プロデューサー/ディレクター:有福 英幸(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:坂本 悠樹(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:富田 由衣(フューチャーセッションズ)
ファシリテーター:橋本 阿姫(フューチャーセッションズ)

株式会社ヒューマンルネッサンス研究所は、オムロングループの人文社会科学系のシンクタンクとして未来予測理論「SINIC(サイニック)理論」の研究・普及や未来社会探求に取り組んでいます。オムロンが経営の羅針盤とする「SINIC理論」では、社会進化として最適化社会(2005 – 2024)から自律社会(2025 – 2032)へ移行したのち、自然社会(2033-)の到来が予測されています。(※)

SINIC理論によると自律社会元年と呼べる2025年。自律社会が訪れ、次の自然社会が視界に入ってくる時代の大きな節目において、私たちはありたい未来をどのようにデザインし、その実現に向けどのような実践を進めていけるのでしょうか。

フューチャーセッションズは、ヒューマンルネッサンス研究所とともに、中長期の視点を共有しながらより良い未来社会を共に創り出していくことを目指すことを目的として、2024年9月、「Future Timeline Project」を立ち上げました。

本プロジェクトでは、多様な立場のメンバーが集い、この先10年を見据えた変化を想定し、ありたい社会やその実現のために求められるアクションについて対話を重ねました。

その第1回目のテーマは「お金」。私たちの暮らしと切り離せない「お金の健康なあり方」を問い直し、未来に向けたアクションを生み出すための3回のセッションが行われました。
議論の中で見えてきたのは、「お金」だけでなく、未来社会のあり方そのもの。自律社会、そして自然社会へ移行するために必要な視点とは?変化のカギを握るのは何か?プロジェクトの第1回 を、ヒューマンルネッサンス研究所の立石さん、田口さんと振り返りました。

※SINIC理論とは
よりよい社会をつくるという理念に基づき、社会のニーズを先取りした経営をするためには、未来の社会を予測する必要があるとの考えから提唱された未来予測理論。オムロン創業者である立石 一真(たていし かずま)らが1970年に国際未来学会で発表。科学・技術・社会が相互に影響を与え合いながら発展していくことを基本的な考え方とし、2000年代には下記の社会進化を予測。オムロンではこの理論を元に、社会に対し常に先進的な提案を行い、今もなお経営の羅針盤として位置付けている。

 

出典:未来への羅針盤「SINIC(サイニック)理論
https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/sinic/theory.html

最適化社会(2005 – 2024)
個に合わせた情報と機能が選択できる社会。新旧価値観のぶつかり合い、社会・経済システムのひずみの生じる時代。

自律社会(2025 – 2032)
社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する社会 。「心」と「集団」を大事にして多様なコミュニティを遊動する、自律分散型のコンビビアル(自立共生)な時代。

自然社会(2033-)
人間の活動と技術が自然の摂理・プロセスに融和し循環する社会。 自然や生命の究極の自律メカニズムにもとづき、ノーコントロールの持続可能な状態が実現する時代。


立石 郁雄さん (株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 代表取締役社長 )
学生時代はラグビー部主将。大手銀行勤務を経て、1996年オムロンに入社。制御機器の営業、商品・事業企画、新規事業開発、海外現地法人経営、マーケティング等に従事。 2021年日本初の障がい者福祉工場オムロン太陽(大分)社長。2023年1月より現職。1970年国際未来学会で発表された「未来予測理論SINIC理論」を羅針盤として、企業の枠を越えてよりよい未来社会づくりに邁進中。

 

田口 智博 さん(株式会社ヒューマンルネッサンス研究所 主任研究員)
コンサルティング会社、自動車メーカーシンクタンクを経て、2008年にオムロンのグループ内シンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所に入社。オムロングループ長期ビジョン策定プロジェクトへの参画、オムロン独自の未来予測理論「SINIC理論」にもとづくコミュニケーション活動、オウンドメディア運営や未来共創活動に従事。

 

有福 英幸 (Future Sessions)

ストーリー

【SINIC理論を羅針盤に、未来を共に描くプロジェクト】

有福)2014年、ヒューマンルネッサンス研究所とフューチャーセッションズで「2014年の暮らしと自然の関わり」をテーマに未来シナリオをつくったのが田口さんとお会いしたきっかけでした。

田口さん)そうですね。あれから約10年が経過して、現在はSINIC理論によると「最適化社会」から「自律社会」への転換期とされています。こうしたタイミングを捉え、SINIC理論を羅針盤に様々なバックグラウンドを持つ方と共にに未来をデザイン、それを実現するためのアクションを一緒につくりたいと考えていたところでした。

セッション当日、これまでの対話の振り返りを参加者に説明する田口さん

フューチャーセッションズは社会や組織の様々な問題や課題に対して、多様な方々を迎え入れて解決を目指す「共創プラットフォーム」を構想されているとのお話を伺いました。多様なメンバーによる未来共創を目指されていることに共通点を見出し、ぜひ一緒に新たなプロジェクトを立ち上げましょうとお声がけをしました。

有福)とても嬉しいお声がけでした!その後、田口さんと相談を重ね、短期の個別対応では解決が難しい社会課題に対して中長期の視点を共有しながらより良い解決策を共に創り出すことを目指すことを目的に、「Future Timeline Project」を2024年9月に立ち上げました。第1回のテーマを社会も個人も豊かにするお金の健康なあり方をテーマとし、全3回のセッションを行いました。

田口さん)テーマを決めた経緯として、ここ数年、「経済成長だけを追いかけることが本当の豊さなのか?」という疑問を抱いている人が増えているのではないかと思っていました。実際に人が少ない地方に出向くと、たとえお金を持っていたとしてもタクシーなどのサービスが受けられないシーンに遭遇します。そんな時、私たちは「お金とは何か?」「本当の豊かさとは?」という問いを自然と持つことになります。それらの問いについて考え、本当の豊かさについてもう一度振り返る機会になればいいなと思い、このテーマを設定しました。社会のあり方に思いを馳せ、改めて描くには身近でとても良いテーマだったと思います。

有福)世の中を変えるような事業や取り組みについて、「お金」なしに考えることはできませんよね。それにヒューマンルネッサンス研究所の親会社であるオムロン株式会社では、ファクトリーオートメーション事業やヘルスケア事業にとどまらず、社会インフラに関わる事業も展開されています。なかでも、現金そのものの取り扱いが徐々に減っていくレス・キャッシュ時代という近未来を念頭に、世界で初めて磁気カードを利用したキャッシュディスペンサー(CD)を開発したのがオムロンだという過去を振り返ってみても、第1回に相応しいテーマ設定であったと思います。

【対話から生まれる「変節点」をどう起こし、どう乗り越えるか、が未来を動かす】

有福)全3回(#1〜#3)のセッションには企業や学術組織など多様な方々にご参加いただきました。毎回約20名の方が参加してくださり、中には静岡から新幹線で毎回通ってくださる方々もいらっしゃいましたね。

#1のセッションでは、社会・お金・価値観の三層を軸に未来を考えました。

例えば、「社会」の軸では、AIやロボットの発展により可処分時間が増加し、新たな豊かさの基準が生まれる可能性がある。
また、「お金」の軸では、物理的な存在がどんどんデジタルへ移行するという見方や、デジタル化の進展とともに、「徳」による経済活動が重視されるという意見もありました。信用を基盤とした社会が形成されることで、従来の経済概念が変化するのではないか、という視点です。
「価値観」の軸では、仕事に対し「やりがい」を重視する人が増えるという考えや、子育てを親だけが負担するのではなく、地域一体となって担うことで互助の世界が広がる、という話も挙がりました。

 

個人的に面白いと思ったのは、「労働」についての考え方の変化です。「社会」の軸では、現状「人間=労働力」の見方が強く、効率重視で生産性を高く、という考え方が主流です。これが今後、感情労働(相手とのコミュニケーションにおいて感情のコントロールや表現の必要がある労働形態)の価値が高まるのではという考えがありました。「スマイル0円」の考え方ではなく、スマイルこそが一番高い価値として認められるのではないか。そうすると「人間=労働力」の見方を脱却して、人間力の回復や他者との共存につながっていくのではないかという変節点(=社会、経済、価値観が大きく変化する重要な分岐点)が挙げられていました。

田口さん)私はSINIC理論における「最適化社会」の観点で人間の労働を見ていては、「自律社会」はいつまでも到来しないなのだと改めて認識しました。自律社会を迎えるために、どのような変化、アクションが必要か、常に考えて行動することの大切さも合わせて実感しました。


#1の対話を通じてつくりあげた2024年から2035年までのタイムライン

田口さん)#2〜#3では、#1でつくりあげたタイムラインを肉付けしつつ、その中で重要だと思う変化(変節点)を起こすために必要なアクションについて対話を行いました。興味深いアクションがたくさん創出されましたね。

セッション当日、これまでの対話の振り返りを参加者に説明する田口さん

有福)「自分らしさを取り戻すために、厳しい自然の中で農業などを行い、自然の理不尽さやうまくいかないことも体験する」、「『余裕資本』(=金銭、不動産、能力、スキル、時間など自身が他者へ提供できるもの)の利他的活用が当たり前になる社会を実現する」などのアクションプランが創出されました。

セッションを通じて、多様なアウトプットが創出された

【能動的に自ら未来について考え、オーナーシップを育むプロジェクト】

有福)みなさんが考えたアクションをベースに田口さんと今後のタイムラインを整理したのですが、Future Timeline Project第1回の成果として、自律社会から自然社会へ向かっていくための2つの道のりが見えてきました。

1つ目は、「性悪説から性善説へ」という変節点を乗り越えること。今の社会は「人は何かしら悪いことをするんじゃないか、リスクをどう回避するか」を考えてシステム設計がなされているパターンが多いように感じます。それが、性善説にシフトしていくことで人間の自由や共生が実現していくのではないでしょうか。

田口さん)対話の中で、あらゆるところに監視カメラを設置すれば効率よく治安の維持ができるという考え方もありますが、それだけでは違和感を感じるし息苦しくなってしまうよね、という話がありましたね。すべてに生産性や効率を求めるだけでは自律社会、自然社会は実現できません。そのような違和感に気づき、社会を見つめ直すことは改めてとても意義があったと思います。

有福)自律社会から自然社会へ向かっていくための2つ目の道のりは、「資本の分散」。現状、企業などに資本が集中していて、そこから従業員などに分散される仕組みになっていますが、資本を中央や富めるところに集中させるのではなく、直接的に個人が個人に分配できる仕組みが実現できれば、お金のためではなく他者のために貢献する、感謝が巡る社会が実現していくと思われます。

立石さん)「お金」というテーマからこれだけの多様なアウトプットが生まれたのは、多様な方々にご参加いただいたからこそ。とても素晴らしいですね。

ヒューマンルネッサンス研究所では、2033年以降の自然社会のその先へ向けて、「科学」「技術」「社会」それぞれの分野の有識者や未来創造の実践者の方々とよりよい未来づくりに向けた活発な対話を行っています。その中で、自然社会へ向けた興味深い変節点が浮かび上がってきました。

それは、「自然への理解のシンカ」です。ここでの“シンカ”には、進化・深化・真価・新化といった多様な意味が含まれます。
自然社会では、「私たち」は人間でありながら「環境」を構成する存在でもあるとの理解のもと、人間と自然の境界がより曖昧になっていきます。そうした中、これまで増大し続けてきた人間のエゴ、情報や選択肢などは臨界点を超えて、人間の自我そのものが縮退していきます。また、このような社会においては、技術がいかなる状況でも人の適応を支える新たな進化を遂げていくことになるのです。

セッション#1の最初に、立石さんにSINIC理論の特徴や価値について参加者へお話しいただきました

有福)今回の対話の中でも、実はそれに近い話がありました。人間の価値観は、「自分本位の行動」から「孫の世代まで考えた行動」に変化するといったことなどです。立石さんがおっしゃったのは空間的に自己が広がっていく感覚、今回のセッションで挙がったのは時間的に自己が広がっていく感覚でした。

立石さん)はい。そのような変化を考える時に忘れてはならないのが「技術」の存在です。変化と技術は、切っても切り離せない関係にあります。例えば、人間が何かを選択、意思決定する時、インターネットで情報収集を行うことが多く見られますよね。今後は、そのような人の判断がAIにゆだねられる機会が増えるかもしれません。このように人の行動や社会のあり方の変化の裏側には、必ず新たな技術の力が介在することになります。

有福)確かに、今回はSINIC理論の専門的な話は少なめに対話を進めましたが、今後そうした「科学」「技術」「社会」の変化に関するより解像度の高いインプットがあると、また違った観点からアウトプットが生まれそうです。

立石さん)社会が変化していくためには、人々の意識が変わることがまず大切です。今回のプロジェクトを通して、みなさんの未来への意志や意識の変化を感じました。自然社会の実現に向けた大きな一歩だと思います。

有福)私も同じ想いです。誰かに言われて行動するのではなく、自らの頭で能動的に考えることで初めて未来へのオーナーシップが生まれます。このことこそが人々が豊かな時間を築くうえで本当に大切で、こののプロジェクトの大きな意義だと私も感じています。
田口さんは、今回のセッションで印象に残ったことはありますか?

田口さん)まずは参加者の方々が、心から楽しんでくださった様子がとても印象に残っています。毎回20名もの方々が、集まってくださるのはすごいことですし、とてもありがたかったです
特に、今回はSINIC理論をベースにしつつ、まずは「みんなで未来を考えよう」というコンセプトが響いたのではないでしょうか。フューチャーセッションズの対話手法などのノウハウがあちこちに散りばめられ、、誰もが面白がって自分の思考や感情をセッションの場に出し合える時間になったと感じました。

有福さん)参加者同士、セッションをきっかけにランチ会を開いたり、懇親会にも多くの方が参加してくださって、終始とても和やかな雰囲気でしたよね。新しいつながりが広がったのも非常に良かったと思います。

田口さん)加えて、フューチャーセッションズのみなさんとの各回のセッションの振り返り、とりまとめを円滑に行えたこともポイントだと思います。こうしたセッションの場のフォローは、参加者の意見を羅列するだけでは全体像が見えず、一方で事務局の意図で整理やまとめを進め過ぎると参加者の違和感を生むことになります。あらためて、予定調和ではない自由な対話の良さを活かしながら、参加者からのさまざまなインプットをバランスの取れたカタチにし、回を追うごとにセッションの場が盛り上がったことはとても良かったのではないでしょうか。

 

セッションの振り返りの様子

 

【プロジェクトの成果を活かし、新たなフィールドへ共創の輪を広げたい】

立石さん)多様な方々が参加してくださいましたが、今回のアウトプットについてみなさんの個々の活動に活かされると良いですね。

 

 

有福)はい。自分たちの組織や事業がどう変革すべきかを示す、一つの指針として今回のアウトプットを自由に活かしていただけたらと思っています。とはいえ、いきなり個々の組織で実施するのはなかなか難しいとも思います。
個人的には、SINIC理論の観点や共創の考え方を少しでも持っていると、変化が起こる可能性が高まるのではないかと思っていて。そういった後押しができるプロジェクトに今後育っていくといいなと思っています。

立石さん)今回のプロジェクトは、SINIC理論をインプットしつつ、未来をデザインするという取り組みです。アクションを具現化していく際には必ず乗り越えなければいけない壁が発生します。それをどう乗り越えるかが一番のチャレンジになりそうですね。その時に、Future Timeline Projectで得たつながりを通して、それぞれの強みを活かしながら領域横断的に共創の輪を広げていけることを期待しています。理論と開発・実践の行き来を繰り返す中にイノベーションを興すヒントがきっとあるはずです。

田口さん)共創を加速させていく上では、アウトプットを携えながら地域といったリアルなフィールドへと取り組みを広げていきたいですね。
今回は品川の会議室で全3回のセッションを実施し、東京という場所からみた未来が話題の中心となりました。今後、東京以外でもセッションの場をもちながら、実践を念頭に置いた本当の意味での未来共創を目指していければと考えます。また、そうした考えに賛同してくださる方が今回の参加者の中でいらっしゃれば、ぜひこの先のセッションを一緒にプランニングしていけると嬉しいですね。

有福)次は「ヘルスケア」や「エネルギーと食」をテーマにセッションを行いたいというお声もいただきました。新しいテーマでも、たくさんの方々とご一緒していきたいですね。リアルの場だけでなく、オンラインでもコミュニティをさらに形成していくことを考えています。

立石さん)大きな変化を起こすには、地域やステークホルダー横断で取り組むことが大事ですね。

有福)はい、これから様々な地域で対話やアクションの実践を広げていきますが、この取り組みが色々な地域に自律分散的に広がっていくといいなと思っています。そしてそれぞれの地域が緩やかにつながって協調できるような仕組みをつくれると、「自律社会」の実現につながっていくのではないかと思っています。
立石さん)SINIC理論では2025年からの「自律社会」、その先の2033年には「自然社会」の到来が予測されています。今後、自然社会以降がどうなっていくのかについて、理論研究をさらに深めて、「SINIC理論のその先へのアップデート」としての構築を目指しているところです。そうした理論の深化とともに、開発・実践というところでフューチャーセッションズの皆さんとご一緒できると良いですね。

有福)とてもワクワクしますね!ぜひご一緒させてください。今後もどうぞよろしくお願いします。

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