プロジェクト事例 PROJECTS
株式会社Tポイント・ジャパン「五島の魚プロジェクト」

「五島の魚プロジェクト」
利害が異なるステークホルダーが離島の問題解決に向かう

概要

プロジェクト期間
2016年11月 - (継続中)
課題・背景
どうすれば「地域活性化」を持続的に行えるだろうか?
支援内容
事業開発、地域開発
体制

ファシリテーター:芝池 玲奈(フューチャーセッションズ)
プロデューサー:有福 英幸(フューチャーセッションズ)
プロジェクトリーダー:瀧田 希(Tポイント・ジャパン)

マルチステークホルダーの共創による新しい価値づくり

株式会社Tポイント・ジャパンは、「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」の第三弾として、五島列島の未利用魚の課題に挑む「五島の魚プロジェクト」を実施しています。プロジェクトでは利害が異なるステークホルダーが1つのビジョンに向けて歩み、商品を完成させることができました。
地域の抱える課題の解決のためにどのようにプロジェクトを進めたのでしょうか。その実態に迫りました。


瀧田 希(たきた のぞみ)
株式会社Tポイント・ジャパン コミュニケーション戦略室 プロデューサー
2002年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社入社。
Tポイントの宣伝販促業務に従事。2011年より東日本大震災被災地に子どもたちの遊び場を建築する「Tカード提示で東北の子供達に笑顔を」プロジェクトを立ち上げ、東北3県に5軒の遊び場を建築する。2016年にはTポイントのブランド担当として6,000 万⼈超のT 会員基盤、T ポイントアライアンス企業ネットワーク、T カードがもたらす約50 億件の購買データなどを活⽤して社会や⽣活者に還元、貢献をしていくT カードの社会価値創造プロジェクト「T カードみんなのソャルプロジェクト」を立ち上げ、以降「五島の魚プロジェクト」など3つのプロジェクトを実施中。

ストーリー

五島列島で見えた「未利用魚」の問題

−「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」がスタートしたきっかけを教えてください。

2016年9月末にTカードをお持ちのT会員のみなさまが6,000万人を突破し、日本の2人に1人の方にTカードをお持ちいただけるようになりました。このタイミングで、Tカードのインフラや資産を社会により還元していけるような活動をしたいと考え、「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」を立ち上げました。

Tポイント・ジャパンはマーケティングの会社ですので、ビッグデータや会員基盤などを活用して、アライアンス企業様へのサービス提供を行っています。Tカードには、年間50億件のトランザクションがあります。例えば、それらのデータをIDや商品などを軸にして分析をすることで、商品開発や店舗・棚割の最適化など、様々なことに活用できますが、ビジネスだけではなく、地域課題の解決にも貢献していきたいと考えるようになりました。

−そうした思いの中で、今回の「五島の魚プロジェクト」がスタートしたきっかけを教えてください

この「五島の魚プロジェクト」は、「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」の第3弾です。第1弾は三陸の牡蠣の商品開発、第2弾は東北の子どもたちのアート制作支援を行いました。

日本全体を見渡した時、地域の一次産業の課題が大きいのではないかと思っていました。一次産業の六次産業化を必要としている地域がある一方で、知見やネットワークの少なさから地域の方だけで進めるのには限界もあります。「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」第3弾においても一次産業の六次産業化に取り組もうと考えました。

第1弾の三陸の牡蠣の商品開発の経験から、漁業の課題の深刻さを感じていましたので今回も漁業の課題にアプローチしようと思いました。その中でも特に離島の課題に着目しました。離島は魚が豊かにとれる一方で、その鮮度を落とさずに首都圏に運ぶには輸送費が高額になってしまいます。そのため、高級魚や人気の魚種のみの出荷になってしまいます。
多くの方が知っている五島においても離島の漁業としての課題があります。五島の課題を解決することでほかの離島の課題を解決できる糸口が見つかり、横展開をしていくこともできると考え、その一つ目の事例として、もともと漁業で知名度のある五島がモデルケースになればいいなと思い、「五島の魚プロジェクト」をスタートしました。

−五島列島が抱える漁業の問題をどう発見したのですか。

五島列島は、多種多彩な魚が取れる海の恵みが豊富な土地ですが、東京で事前に有識者の方たちにお話を伺った際に離島の漁業ならではの鮮度保持や輸送コストの課題があることを知りました。ただ、より具体的な課題を現地の方にお聞きしたく、五島列島に向かいました。そして、1週間ほど下五島と上五島を回り、漁師さんや漁協、仲卸、水産加工会社、市役所など様々な方たちにヒアリングさせていただきました。

そこで、浮かび上がってきたのが「未利用魚」の問題です。未利用魚とは、サイズが不揃い、魚種がマイナー、一定のロットに満たないなどの理由で価値がつかず、定置網にかかっても捨てられてしまう魚の総称です。

さらに、五島の未利用魚は、捨てられているだけではなく環境にもマイナスの影響を与えていることがわかりました。代表的な未利用魚であるアイゴ、イスズミ、ブダイ、ニザダイといった海藻を食べる魚が増えすぎると、同じく海藻を食べて育つウニなどが生息できなくなったり、魚類の産卵場所が確保できなくなるといった問題が出てきます。さらに食害によって海藻類の群集が枯死する「磯焼け」と呼ばれる状態では、一気に水質が悪化する恐れもあります。

異なるステークホルダーの思いが形となったプロジェクト

−どのような思いを持ってプロジェクトに臨みましたか。

個人的にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(Tポイント・ジャパンの親会社)が持っているインフラやビッグデータを広く社会に還元していくことが、企業としての存在意義なのではないかという思いがありました。

「五島の魚プロジェクト」では、商品開発や流通に携わる方たちがチャレンジをしたくてもなかなかできない、もしくは、実現困難で諦めてしまうようなチーム作りにあえてチャレンジしたいと思いました。
それは、利害の異なるステークホルダーで共創するということです。具体的には、生産者(地域の方)は1円でも高く地域の物を売りたい、流通の方は1円でも安くよい物を仕入れたい、消費者は質がよくなくても安い物がほしい人と高くても質のいい物がほしいという人とに二極化しています。

それぞれの利害が相反している中で、それを超えて、各者が知見を持ち寄り、未来社会に求められていることを実現したいと思いました。そのためには、それぞれのニーズや思いが重なる部分を見つけて、商品の開発というアウトプットにつなげていく必要があります。それこそが共創型のプロジェクトであり、実現できたら画期的だと思ったのです。

−問題の解決のために、特に力を入れた点を教えてください。

賛同者を増やしていく活動です。交渉や調整とも違い、ビジョンや思想に賛同してもらった上で、共に動いてもらわなくてはいけませんでした。それぞれのステークホルダーの皆さんのやりたいことを引き出すこと、そして、このプロジェクトに参加するメリットを可視化し、賛同しやすいように工夫しました。

大きなビジョンは同じですが、その下の階層にはステークホルダー個別のニーズがあります。プロジェクトを進めるにあたっては、各者のニーズが叶えられた上で、大きなビジョンが達成されるという構造にする必要があります。生産者、流通に携わる方、消費者の三方よしの設計になるよう心がけました。

生産者さんからは、五島列島の海で取れる豊富な魚の知識と作り手として大切にしたい思いが語られました。
流通に携わる皆さんからは、持続的に売れる商品を検討し、他にはない五島列島ならではの魅力を探りました。
そして、消費者の代表には、Tカードの購買データとT会員ネットワークを活用して選ばれた、特に食と魚介にこだわりを持っているメンバーの方に入っていただきました。魚介好きならではの視点は商品開発の上で欠かせないものとなりました。

他にも、食のプロとしてシェフ、さらに、Tカードのビッグデータもステークホルダーという位置付けで考えていました。この五者が、対等にそれぞれの知見を出し合い、商品開発を進めていったのです。

−ステークホルダーの方から言われた印象的な言葉や出来事を教えてください。

五島の生産者さんからは、「洋風の商品開発は初めてだったので、暗闇のトンネルを走っているような6か月を過ごした後、ようやく商品ができた時は嬉しかったです。プロジェクトに参加して、これまでにない刺激的でワクワクする楽しい日々を過ごすことができました」と言っていただきました。

また、商品リリース後には、流通さん自ら五島の生産者さんに具体的なアドバイスをしてくださったり、懇親をしながらディスカッションをしたりしている姿も印象に残っています。通常であれば、地域の1つの商品について話すことはないかと思います。自分ごととしてプロジェクトに関わってくださったことは感慨深かったです。

また、消費者代表として参加いただいたT会員のみなさまには「こんなに夢中になれる体験をすることは一生のうちに何度もないと思います。Tカードを提示して、購買履歴を残しておいてよかったです! そのおかげでこんなにも楽しいプロジェクトのオファーをいただいたんだから」と言っていただきました。

ちなみに、このプロジェクトを通じてT会員の方々の仲が深まり、定期的に懇親会開催されています。メンバーには27歳の方から 70歳の方までいますし、性別もお仕事もバラバラです。日常生活では、まず出会うことがない方々です。でも、同じビジョンを持って活動をしていく中で、本当のチームになっていくことができ、仲間という意識が生まれました。プロジェクトが一区切りした今も、「次はどんなプロジェクトを考えているんですか?」と聞いてくださるくらいです。

「達成したい未来」を作り出すフューチャーセッションの手法

−フューチャーセッションズと「Tカードみんなのソーシャルプロジェクト」をどう進めたか教えてください。

私がこのプロジェクトを立ち上げる際に、ある方から「フューチャーセッションという手法を用いて進めてはどうか」とご提案をいただきました。当時の私は、フューチャーセッションのイメージがつかなかったので、実際に渋谷のB.LEAGUEのセッションに参加をしました。そして、「これはぜひ取り入れたいな」と思い、フューチャーセッションズさんに正式にご相談をしました。

「五島の魚プロジェクト」では、チームビルディングや商品のコアアイディア決め、試作品作りなど全てのステップでセッションを行いました。本プロジェクトのセッションは、意思決定や合意形成のための場ではなく、常によい問いがあって、「みんなで達成したい未来を作り出す」という視点で対話をするフューチャーセッションの手法がふさわしいと思いました。このフューチャーセッションを開催するにあたり、フューチャーセッションズさんには多くのご協力いただきました。この手法で対話をすると現実的かつ一定の視野で物事を見がちな人でも違う発想と思想で発言ができるようになるんですよ。

−「五島の魚プロジェクト」の現時点での成果を教えてください。

私が実感している成果は大きく2つあります。1つは、難しい座組みで商品開発を達成できたことです。製造した商品「五島のフィッシュハム」は、いまもお店に並び、手に取っていただける商品となっています。

もう1つは、五島の生産者さんが未利用魚を活用して次なる商品を自発的に作りはじめられたことです。簡単にはいかないことが多い中で、「意義」と「やりたい」を軸に活動していらっしゃいます。
いつまでも私たちが伴走できるわけではないので、最終的には地域の方が自走できることを目指していく必要があります。その意味で、少しでもゴールに近づいていることが嬉しいです。

−次のステージに向けて歩み出していること、あるいは、これからどんなことを実現したいと考えているかを教えてください。

「五島の魚プロジェクト」は継続し、別の商品も開発していく予定です。また、五島列島では「五島の魚プロジェクト」の活動のひとつとして新しいアイディアがスタートしました。
新型コロナウイルス感染症の影響で、五島列島の主要産業である一次産業や観光業が大打撃を受けました。少しでも地域を応援できないかと考え、五島と東京を結ぶ「うんまかTV」をインスタグラムでライブ配信しています。「うんまかTV」は、新進気鋭の若手シェフの森枝幹さんが、五島列島のおじいちゃん、漁師さんたちから郷土料理を習いながら、地域の食材や魅力を紹介する番組です。まずは「うんまかTV」を観て土地のものを知って購入してほしい。そして、ゆくゆくは実際に五島列島に足を運んでもらって、五島ならではのものを食べたり、地域の方々に会ったりしてもらえると嬉しいです。

また、次なるステージとして、未利用魚の課題解決を他の地域でも展開をしていくことはできないか、検討を始めています。未利用魚の課題は五島列島に限らず多様な地域で生じているので、日本の漁業の持続可能性の鍵となる活動になると思っています。

とはいえ、第一義的に問題解決を持ってきてしまうとどこかで息が詰まってしまいます。プロジェクトを無理なく継続させていくには、参加するステークホルダーのメリットはもちろんですが、ワクワクや楽しさが大切。一緒にやったらおもしろいことが起きそうだなという期待感を醸成していきたいですね。

−今後、どういう方やどういう会社さんと一緒にプロジェクトに取り組んでいきたいですか。

個人も企業もコロナ以前と同じ価値観で生きていくことは難しくなると思います。イノベーションを起こす会社は起こして新しい価値を生み出し、イノベーションを起こすことに前向きではない会社は時代から取り残されてしまうでしょう。
こういう時だからこそ、イノベーティブなことにワクワクしながらチャレンジをしていける人たちとチームが組みたいと思っています。イノベーションが企業を継続させるということはもちろんですが、それ以前にそんな姿勢を持った方たちと共にプロジェクトで活動できるとワクワクしますね。そんな方たちと、社会の多様な課題に積極的に向き合っていきたいと思っています。

プロジェクト参加メンバー PROJECT MEMBER

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