プロジェクト事例 PROJECTS
【オンライン対話イベント】青森県藤崎町「ふじさきコネクト」

まち歩きが「形」になる——Wikipediaとグッズで発信した6ヶ月

概要

プロジェクト期間
ふじさきコネクト 2025年6月23日~2026年3月31日(全6回)/ オンライン対話イベント 2026年4月25日(土) 14:00〜15:30
課題・背景
少子高齢化が進む小さな町で、多世代が協働しながら地域の魅力を発見・発信・継承する仕組みをつくることで、地域外人口との継続したつながりの構築、町のファンや応援者としての関係人口の創出及び将来的な移住定住につなげる。また、地域住民にあっては地域への愛着及び地域活性化を図る
支援内容
共創プログラム設計・運営/対話イベント企画・ファシリテーション
体制

プロデューサー:最上元樹 (フューチャーセッションズ)
ディレクター:宮武洋一 (フューチャーセッションズ)
参加者サポート:富田由衣(フューチャーセッションズ)

青森県藤崎町(ふじさきまち)は、人口約1万4,000人[出典:藤崎町HP]。青森県で2番目に 面積が小さく、津軽平野のほぼ中央に位置するこの町は、世界で最も多く生産されるりんごの品種「ふじ」発祥の地として知られています。岩木山の眺望、白鳥の飛来地、肥沃な土壌に育まれた農業——住民が感じる幸福度は東北上位でも、「知る人ぞ知る」という状況[出典:陸奥新報 2022年11月17日]。対外的な発信をどうするかが長年の課題でした。

そこで2025年、青森県藤崎町とフューチャーセッションズは、デジタルと対話を組み合わせた共創プログラム「ふじさきコネクト」をスタートしました。町内外の 高校生から大人まで多世代が参加し、まち歩きを通じて地域の魅力を再発見しながら、Wikipediaの記事作成とオリジナルグッズの制作という「形」にして世界へ発信する6ヶ月のプログラムです。

2026年4月、その実践を広く共有するためのオンライン対話イベントが開催されました。「小さな町から世界へ発信する地域づくり」をテーマに、全国から参加者が集まったこの場では、ふじさきコネクトに参加したメンバーたちの全6回・6ヶ月の体験が語られ、参加者一人ひとりが自分の地域に思いを馳せる時間が生まれました。

ストーリー

【土曜の午後、全国各地からオンラインで集う】

土曜の午後、オンラインの画面に全国各地からの参加者が次々と集まってきました。カメラをオンにしている人も、オフのままそっと参加している人もいます。司会進行を務めるフューチャーセッションズの富田が「土曜のお昼にありがとうございます」と挨拶をし、登壇者たちが自己紹介を兼ねて「今日食べたお昼ご飯」を披露すると、場の空気がほぐれていきます。それぞれのお昼ご飯の話に笑いが生まれ、ゆるやかにイベントがスタートしました。

「チャットでの発言、大歓迎です。気づきや感想や質問、何でも書き込んでください」という呼びかけのもと、チャット欄に思い思いの投稿が流れ、事前に質問を送ってくださった参加者も。それぞれ好きなスタイルでイベントに臨みました。
今日の舞台は、青森県藤崎町。この町で半年間にわたって実施された共創プログラム「ふじさきコネクト」の実践の共有が始まります。

 

 

【ふじさきコネクトとは何か】

まずは藤崎町役場の黒崎さんから、町の紹介がありました。

 

 

藤崎町役場 黒崎さん)津軽平野のほぼ中央に位置する藤崎町は、青森県で2番目に面積が小さい町です。海も山もないのですが、遠くに岩木山がきれいに見えて、まちの人はみんな岩木山が本当に大好きです。また、りんごの品種「ふじ」が生まれた町でもあります。住民の幸福度は実は高くて、青森県内でも上位なのですが、外への発信が足りていない。それが長年の課題でした。

住民は自分たちの町に誇りと愛着を持っている。でもそれが外に伝わっていない。その課題に対して生まれたのが、「みつける・つなぐ・ひろげる」を合言葉にした「ふじさきコネクト」です。
実は、このプロジェクトの始まりは小さな雑談からでした。藤崎町役場の川田さんが別のプロジェクトに取り組んでいた頃、プログラムを設計・運営したフューチャーセッションズの最上との何気ない会話の中で「まち歩きをしながらWikipedia記事を作るという活動があって…」という話が出たのがきっかけでした。

藤崎町役場 川田さん)雑談の中で出たアイデアを、役場の事業として提案させていただいて、実際にフューチャーセッションズに内容を設計していただき、「ふじさきコネクト」が実現しました。認知度の低い町が、どうやって認知を広げていけばいいのか、そのヒントを探していたところだったので、このアプローチには可能性を感じました。

フューチャーセッションズの最上は、このプログラムで大切にしたポイントをこう語ります。

最上)みなさんは、ご自身の住むまちの魅力をすぐに語れるでしょうか?意外と気づいていない良さがまだまだあるのではないかと感じています。だからこそまずは、改めて魅力を「みつける」ことから始めるプログラムにしました。

住んでいるからこそ見えなくなっているものを改めて掘り起こすところからスタートする。そのうえで、発見した魅力をどう「残し、届けるか」にもこだわりがありました。

最上)アナログで形に残るものをつくることはもちろん、今後は検索して引っかからないと「ない」とみなされてしまうこともあります。つまり、デジタルに残していくことも意識していかなくてはなりません。
国内外に向けて発信し、アーカイブされることで残るものを作ることを意識してプログラムを設計しました。

まちを歩いてアナログに発見し、それをデジタルで世界へ届けて残す。それを実現するツールとして選ばれたのがWikipediaです。世界中で参照される百科事典でありながら、編集は誰でもでき、記事は削除されない限りデジタルに残り続けます。その特性を活かして、参加のハードルを下げることにも力を注ぎました。

最上)数あるメディアの中からWikipediaを選んだ理由は、永続性(記事として残り続ける)、中立性(百科事典としての客観的記述)、検索性(GoogleやAIから参照される)の3点にあります。
note や YouTube とは異なり、誰が書いたかではなく「事実として残る」という点が、地域の魅力を長期的にアーカイブする目的に合致していました。
「誰でも参加できる気軽さ」を意識しました。デジタルが得意な人も苦手な人も、高校生も大人も、一緒に参加できるプログラムにしたかった。Wikipediaのページ制作にあたっては、Wikipedia日本語版の元管理者の海獺(らっこ)さんを講師にお招きし、丁寧に情報リテラシーを学ぶところから執筆まで初心者でも参加できる内容としました。

半年・全6回のプログラムは、前半と後半に分かれて進められました。前半の3回では情報リテラシーの学びとWikipedia執筆に取り組み、後半の3回では藤崎町の魅力をひろげるためのグッズの企画から制作・実装へと進みます。まち歩きでは神社、いちょう、りんご畑、白鳥ふれあい広場、選果場・貯蔵施設などを巡り、藤崎町の「当たり前だけど特別」な価値を掘り起こしていきました。

 

 

6ヶ月の活動を経て完成したのは、Wikipedia記事2本(「白鳥ふれあい広場」「藤崎町のリンゴ産業」)、津軽弁×りんごをテーマにしたLINEスタンプ、そして日常で手に取ってもらえるスマホクリーナーです。

 

完成したLINEスタンプ

スマホクリーナーには藤崎町ならではの要素が詰め込まれた

【高校生も、デジタル初心者も。多世代がともに歩き、魅力を再発見した6ヶ月】

イベントでは、ふじさきコネクトに実際に参加したメンバーたちの声が語られました。当日の登壇に加え、後日行ったインタビューも交えながら、6ヶ月の体験をご紹介します。


参加のきっかけ——「知らないことがまだまだある」
高校生の水谷さんが参加を決めたのは、以前フューチャーセッションズが藤崎町で開催した高校生向けのまちづくりイベントがきっかけでした。

Wikipedia執筆に取り組む高校生の水谷さん(写真右)

 

水谷さん)藤崎町に住んでいる自分にとって、りんごやアスパラは身近すぎて全国的に有名だということも知りませんでした。また、町の歴史や文化をより深く知ってもらうために活動している方々がいることもあまり知らなくて。藤崎にもっと関わりたい、知りたいと思っていたのですが、そのような場がありませんでした。「ふじさきコネクト」が始まることを知り、ぜひ参加したいと思いました。

町の移住・定住促進 の仕事に携わる北畠さんには、参加を後押しした原体験がありました。

 

藤崎町に住み続け、地域の人々が集うヒントを探したいと参加した北畠さん(写真右上)

 

北畠さん)子どもの頃、祖父が旅館をやっていて。カラーテレビがその家にしかなかったから、みんなが集まってくる場所だったんです。大人になって、あんな場所をつくりたいと、ずっと思っていました。笑顔があれば人は集まると信じているので、そのヒントを得たいと思い参加しました。

高校生の参加者である木村さんには、幼い頃の記憶があります。

 

成果物の発表に臨む高校生の木村さん

 

木村さん)小学生のころは、お小遣いをにぎりしめ、友だちといっしょに近所の商店へ自転車で行くのが日常でした。アットホームな雰囲気で本当に楽しい思い出として覚えています。最近はみんなで集まれる場が減ってきていて、そのような場を増やしたいという気持ちで参加しました。

車では通り過ぎていた場所に、知らない物語があった
プログラムの中心にあったのが、地域を歩いて「当たり前だけど特別なもの」を見つけるフィールドワークです。まち歩きを通して藤崎町の魅力を伝える「ふじさんぽの会」の方と一緒にまちを歩きます。神社、りんご畑、白鳥ふれあい広場、りんごの選果場や貯蔵施設など、普段は通りすぎてしまうような場所も、歴史や文化的な背景にまつわるお話を聞きながら丁寧に歩いていきます。

水谷さん)一番印象に残っているのは、りんごの木の下をくぐる体験です。藤崎町のようにりんご畑が密集しているところでしかできないことだと思います。青森の人でも、町の外の人でも、伝えたら一番面白いんじゃないかって。本日のイベントにご参加のみなさんが藤崎へお越しの際は、ぜひこちらの体験をおすすめしたいです。
白鳥ふれあい広場では、白鳥が本当に目の前にいて、手が届きそうな距離なんです。身近に感じられるあの空間は、まち歩きを続けないと出会えなかったと思います。

 

りんごが豊かになる様子を木の下から見るのは新鮮かつ圧巻!歩くことでしか見えない景色を各自再認識した

 

藤崎町への移住者でもある三浦さんは、フィールドワークで得た発見が印象に残っています。

三浦さん)何回も通っている道でも、歩いたからこそ目に入ってくるものや新しい発見がたくさんあるのだと実感しました。車だと気にせず通り過ぎてしまう場所も、さんぽの会や地元の方のお話を聞くと本当に面白くて。まちのケーキ店でイカ墨入りのシュークリームを初めていただいたのですが、その誕生秘話を聞いたら、より特別なものに感じられました。神社のいちょうは秋になるととても綺麗だという話も聞いて。また季節になったらぜひ見に行きたいです。

 

いかすみシュー誕生ストーリーを聞くと、より味わい深く感じる

 

さんぽの会のガイドの存在も、このフィールドワークを特別なものにしていました。決められたルートをなぞるのではなく、暮らしの余白や小さなエピソードを織り交ぜながら案内するスタイルです。地元の人とのつながりの中でしか聞けない話が、歩くたびに積み重なっていきました。

北畠さん)心に残った場所ももちろんあるのですが、一番印象に残ったのは「ふじさんぽの会」の方々の存在。藤崎町にずっと住んでいる私たちにとって、この会の存在はとても身近だったのですが、地域を知り尽くしてアテンドしてくださるこの体験は実はとても特別なんじゃないか?と気づくきっかけになりました。藤崎町ってこんなにすごいんだよ!と誇張するのではなく、心から藤崎町のことが大好きで活動をしているのがひしひしと伝わってきました。また、まち歩きを通してそれぞれが感じたことを紙に書いて可視化し、共有をするワークは驚きと発見の連続でした!

 

ふじさんぽの会の方から歴史を聴きながらまちの名所をめぐる

 

自分が生まれ育った場所でも、あるいは移り住んだ町でも、改めて誰かと一緒に歩いてみると気づかなかった景色が見えてきます。その体験が、参加者一人ひとりの地域への目線を変えていきました。

 

まち歩きの感想をそれぞれ文字やイラストで可視化する

高校生のひと言が、大人たちの議論を動かした
ふじさきコネクトでは、異なる世代・立場のメンバーが一つのチームでひとつの「形」を作り上げました。その過程には、楽しさと難しさの両方がありました。

LINEスタンプの制作では、なかなか方向性が決まらず最初は苦労したそうです。「日常使いしやすいもの」を軸に大人たちが「ああでもない、こうでもない」と考えを出し合うなか、コンセプトがなかなか定まりませんでした。そんな時、高校生の水谷さんのアイデアが方向性を定めるきっかけになりました。

最上)水谷さんが修学旅行でお休みの回があって。大人たちで『おはよう、おやすみなど日常で使われる文言がいいんじゃないか』と話し合っていたんです。今思えば少なからずマーケティングの視点もあったのだと思います。行き詰まって、水谷さんがあらかじめ送ってくれていたスタンプ案があったので改めてみんなで見直したんですよね。
それは、りんごを主人公として収穫や選果場でのりんごの気持ちを津軽弁で表現したスタンプ。それを見て、りんごが喋るコンセプトってすごくいい!という話になって。大人にはなかった着眼点がとても面白くて、最終的にはこのコンセプトを踏襲したスタンプが出来上がりました。

 

高校生も大人も、さまざまな視点から意見を出しあいたくさんのLINEスタンプ案を吟味した

 

水谷さん)自分のいないところでアイデアが広がっていたのはとても嬉しいし、面白いですね!私は自分が使いたい、かわいいスタンプをつくりたいなと思っていました。それを話したら、大人の方々が、津軽弁をいれたらどうかな?と言ってくださって。自分のアイデアにチームの意見が反映されてより良いものになっていく過程がとても楽しかったです。予算について、私は大人の方ほど深く理解していなかったのかもしれませんが、とにかく自分のやりたいことをアイデアとして話したことが、役立てたのかもしれないと思うととても嬉しいです。

今回制作した藤崎町にまつわるデザインをほどこした「スマホクリーナー」も高校生の「つくってみたい!」という一言から形になったものです。

三浦さん)最初は大人の考えで防災グッズなど、日常で使えそうなものはどうかと話していたのですが、「私の家族がスマホクリーナーを欲しがっているからつくってみたい!」という高校生の意見があって。身近なところから「あったらいいな」を形にしてしまうバイタリティは、大人と高校生が混じったチームだったからこそ生まれたもので、これまた多世代が協働する面白さだと感じました。

大人と一緒に取り組む経験は、高校生の木村さんにとっても新鮮なものでした。

木村さん)自分が何かやりたいと言うと、大人の方が「じゃあ、こうしてみようか」と話を広げてくれることがとても多くて。同世代の中だけでは聞けない、もっと別の広い視点の意見も多く聞くことができ、とても楽しかったです。

Wikipedia記事の作成は、参加者にとって少々ハードルが高い工程でしたが、図書館が事前に準備してくれた数十冊の文献を参照しながら、情報を整理し、執筆を分担しました。

水谷さん)図書館の方が準備してくださった本の中から、大事なところだけ抜き出して書くのがとても難しかったです。しかも要約が必要なので、正しい日本語で伝えなければいけないのがとても大変でした。

 

藤崎町図書館の方々のサポートのもと、Wikipedia制作に取り組む

 

大変ながらも、専門講師の方のサポート体制があったことが参加のしやすさにつながったという声もありました。

三浦さん)文献を揃えて文章にしていくこと、さらにそれをデジタルでやっていくことに難しさや苦手意識もあったのですが、「こうやってやればいいんだよ」と教えてくださる方が常にいらしたので、安心してその場に参加することができました。

それぞれが担当した部分を持ち寄り、記事の全体像が画面に出来上がってきたとき、最上は思わず感動を覚えたといいます。

最上)さすがに長時間集中したので、疲れやぐったり感もあったのですが、ちゃんとこの人数でやり遂げることができるのだ!と感動しました。みんなで分担して書いたので、1つの記事にまとまるか不安でしたがなんとか形にすることができて、本当によかった。思ったよりできた、という感覚が、参加者みんなにもあったのではないかと思います。


完成して、誰かに「ひろがる」とき

完成した記事は、公開直後にWikipediaのトップページに掲載されたことで閲覧数が急増。その後も「藤崎町のリンゴ産業」「白鳥ふれあい広場」どちらの記事も毎日読まれ続け、さらに新たな編集者の手が加わるなど、進化を続けています。

 

完成したWikipediaの記事

 

また、完成したスマホクリーナーを水谷さんは学校の友人に配ったそう。このことが藤崎のことを伝えるきっかけにもなったそうです。

水谷さん)町外に住む友人にスマホクリーナーを渡してみました。「かわいい」と喜んでくれて、壊れるまで使ってくれました。藤崎町の白鳥ふれあい広場やりんごの話をするきっかけにもなっています。

ディレクターとしてプロジェクトを支えたフューチャーセッションズの宮武は、Wikipediaの特徴をこう語りました。

宮武)クリーナーが町外でも使われているなんて、涙がでるくらい嬉しいですね!デジタルとしてはWikipediaページが形になり本当によかったです。Wikipediaのいいところは、誰でも自由に書き込みを追加できること。藤崎町に住んでいる人が「ここはもう少し詳しく書きたい」と思ったら加筆できるし、外から来た人が「こんないいところもある」と気づいたら書き足せる。形として残って、ずっと更新されていくと良いなと思います。

黒崎さんは、成果物が「残ること」の意味をこう受け止めています。

藤崎町役場 黒崎さん)デジタルに成果が残っていくことは、町の未来にもつながりますし、参加者のみなさんの心に残ったのではないかと感じています。こうやって小さな取り組みから町を知ろうと思う人が少しでも増えたことがとても嬉しいです。

川田さんからは、このプロジェクトを通じて自分自身も藤崎町を「再発見」した体験についての話がありました。

藤崎町役場 川田さん)暮らしているとつい大きな商業施設などに目がいって、自分たちの地元には目がいかないこともありますが、意外と知らない地域の姿があると思います。私も30年以上藤崎町に住んでいますが、りんごの倉庫に入ったのは今回のプロジェクトが初めて。またりんご畑に入る経験もほとんどありませんでした。りんごの木の下から空を見上げた時、りんごがランタンのようにキラキラして見えました。まち歩きをした参加者の一人ひとりがそんな地域の魅力を再発見して目を輝かせているのを目の当たりにして、とても嬉しい気持ちになりました。

長く住んでいてもまだ見ていない場所や、気づいていない魅力がある。誰かと一緒に歩くからこそ、初めて足を踏み入れる場所があり、気づかなかった魅力に出会える。経験は、参加者だけでなく事務局担当者の心にも残っています。

 

最上は、このプロジェクト全体を通じて大切にしてきたことをこう振り返ります。

最上)多世代が混ざって活動することによって生まれる面白いことを可視化していくことをしたいと取り組みを始めました。もちろん、半年間継続することの難しさや、世代間でのスケジュール調整、Wikipedia特有のルールに戸惑う場面もありました。その際に気を付けていたのは「正解を出そうとしない」こと。誰か一人、声の大きい人が発言したら、その通りにことが運ぶというよりも、みんなで対話しながら試行錯誤して形にしていくことを大切にしました。今回の経験で良かったことは活かし、改善すべきところは改善を続けていけば良い。また次につなげていきたいなと思います。こういうプロセスが他の地域にも広がればと思い、今日は実践を共有するイベントを行ってみました。

【「あなたの地域の『りんご畑』は何ですか?」】

イベントの後半では、参加者自身が「あなたの地域の『りんご畑』は何ですか?ーー自分の地域の当たり前だけど特別なもの」を考える体験ワークが行われました。チャットにはさまざまな地域の参加者からの投稿が届きます。

 

とある地域の参加者は、その土地に古くから根付く造り酒屋にまつわる言い伝えや、何十年も変わらずに残り続ける石畳の街並みを挙げました。「Wikipediaで伝えるなら、この場所が今日まで続いてきたストーリーを書きたい」という投稿に、チャットにリアクションが重なります。

また別の参加者は、歩いて楽しめるまちを目指す取り組みを紹介しながら、地元に伝わる都市伝説を共有しました。ほとんどの人が一度では読めないその地名には、調べていくほど、地域の歴史と現在がつながっていく面白さがあると話してくれました。
日常の中に、その地域でしか語れない「特別なもの」が潜んでいることに改めて気づかされる投稿が続きます。

イベントの感想に関するチャットも、届いていました。

「藤崎町の取り組みはすばらしい。現在だけでなく、10年前・20年前に同じ思いを持った方たちが残してきたものを振り返ることにも意味があるし、楽しいと感じました」
「地域の情報を共有し、語り合える場が自分も欲しいと感じています。成功事例だけでなく、特に失敗談を話し合える場があったらいいなと」
「身近すぎて魅力だと気が付かなかった、という水谷さんのコメントが印象的でした。自分の地域もまだまだ知らないことがあると気づかされました」
藤崎町の実践が、参加者それぞれが自分の地域を見つめ直すきっかけになっていました。

 

【楽しいからやる。それが、人が集まる場の条件】

Q&Aでは、「地域活動に一緒に参加してくれる人を増やすには、どうしたらいいですか?」という質問に対して、登壇者たちが想いを語りました。

最上)参加のハードルを下げることが大事だと思っています。入ったら必ずこれをやらなければいけない、というルールをつくるほど、人が入りにくくなる。入ったら楽しい、離れたいと思ったら出られる。そういう環境をつくることが、長く続くコミュニティの条件ではないかと感じています。

藤崎町役場 川田さん)確かに。楽しいからやる、という部分を意識しないと、一緒にやる人はなかなか増えていかないと思います。地域活動はどうしても義務感になりやすいけれど、まずはそこを変えていくことが必要だと思います。

川田さんは、プロジェクトを振り返って、行政担当者としての手応えをこう語ります。

藤崎町役場 川田さん)地元の人間でさえ、まちを歩くと「こういう場があるんだ」と驚くことがありました。それをみんなで話し合い、グッズにしていく。そのアナログなプロセスが、参加者同士のコミュニティの育成にもなっていたと感じています。水谷さんが友達にプレゼントして喜ばれたという声を聞いたとき、参加者みんながすごく嬉しそうで。それが地域の誇りにもつながっていくのだなと実感しました。本当に楽しかったです。

黒崎さんも、イベントを通じて得た気づきを語りました。

藤崎町役場 黒崎さん)昨年度の活動を改めて振り返る機会になりました。今日、参加者の皆さんの地域の書き込みを見ていて、藤崎町がどんなふうに伝わったのかな、と気になりました。そして、他の地域のことももっと知りたい!と思えた一日でした。

クロージングでは、登壇者一人ひとりから一言が語られました。

最上)他の地域で同じようなことをやってみた、あるいはやろうとしているという方々と、ぜひつながっていきたいと思っています。そこには上手くいった成功事例だけでなく、失敗や苦悩も必ずあると思っていて。そういうことを半年に1回でもいいので何らかのかたちで情報交換できる場をつくって、地域をより良くしたいという想いをもった人たちで集まって、共有し合える様な関係性をひろげていけると良いなと思います。もし共感してくださるかたがいらしたら、お話ししたいので、ぜひ声をかけてください。

宮武)今回のような実践は、地域に「歩いて魅力を語れる方々(藤崎町ではふじさんぽの会のみなさん)」と「文献を支える図書館」、そして「専門知識をもつ講師」がいれば、規模を問わず展開できると考えています。 もし何かこういったプログラムをやりたいということがあれば、ぜひ相談していただけると嬉しいです。

水谷さん)このプロジェクトを通していろんな人とたくさん話せて、藤崎のことをより知ることができ、嬉しい気持ちでいっぱいです。先日、青森市内に住む友人と給食の話をしていて。「青森市では味噌カレー牛乳ラーメンが出るよ」「え!藤崎町では食べたことないよ」ととても盛り上がりました(笑)。地域の話をするとき、「ここにしかないこと」を語り合うのが一番面白いと思っています。そんな話がこれからもできるよう、この経験をもとに活動を続けていくつもりです。

デジタルの得手不得手や専門知識の有無に関わらず地域内外から 高校生から大人まで多世代が集まり、地域を一緒に歩いて、チームで形にしていく。そこには参加者や事務局の存在だけでなく地域のさまざまな人々の参加が不可欠でした。ふじさきコネクトでは地域のつながりの力強い可能性を再確認できました。
「身近すぎて魅力だと気が付かなかった」という言葉の裏側には、誰かと一緒に歩いたからこそ見えてきた景色がありました。Wikipediaの記事は毎日誰かのもとへ届き、スマホクリーナーが地域を語るきっかけにもなりました。一人ひとりの取り組みから始まり、地域のたくさんの人々の協力を経てみつけた地域の魅力。その魅力を「形」にしたものが誰かとつながり、取り組みがひろがるきっかけになっています。

ふじさきコネクトの取り組みは、まだ始まったばかりです。新たなまち歩きコースや成果物のアイデアも生まれており、地域の魅力の発見はこれからも続いていきます。


【関連するプロジェクトで、他の視点ものぞいてみませんか?】

■地域価値共創
・町民が主役の「大人の部活動」から、地域を遊ぶ2つの事業を生み出す
[藤崎地域デザインLABO| 青森県藤崎町]
https://www.futuresessions.com/projects/25690/

・市民がファシリテーターとなり、住民主体の地域対話を地域に根付かせる
[小松市イノベーション・ファシリテーター講座 | 石川県小松市]
https://www.futuresessions.com/projects/61195/

◾️プラットフォーム構築
・産官学民の立場を越えた対話で、仲間をつくり、まちづくりを実現する
[とやま未来共創会議| 富山県富山市]
https://www.futuresessions.com/projects/28191/

医療・福祉の枠を越え、当事者の声からまちを動かす担い手を育てる
[認知症まちづくりファシリテーター講座|株式会社DFCパートナーズ]
https://www.futuresessions.com/projects/24495/

 

 

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